第278話:士狼VS雷蛇
前方を雷蛇、後方を風蛇。2人の用心棒に挟撃の形を取られてしまった士狼。それでも、士狼の顔には余裕の色が窺えた。それは他でもない、神狼院の血に目覚めた事による自負から来るものであった。
「コイツ随分悠長に構えてるようだが、どこまで保つかねェ、風蛇・・・?」
「さァな・・・ただ、俺ら2人を同時に相手取って生き残った奴は居ねぇ・・・それだけは教えといてやろう。」
雷蛇と風蛇は不敵に笑い、腰の刀に手をかけた。その時、“自爆の不知火”による爆発によってできた浅いクレーターのように凹んだ床面の中央部に、白い炎柱が立ち昇り始めた。
「あの白ェ炎・・・野郎まさか生きて・・・!?」
雷蛇の予想通り、白い炎柱の中から現れたのは和神であった。それも四肢、身体が健在なのは勿論、自爆前に警備隊に撃たれた銃創もなければ、服に空いていた穴すら1つも残っておらず、正に“何事も無かったかのよう”である。
「和神くん、無事か!?作戦と解っていても、ああ派手に自爆されると流石に心配したぞ!」
「すいません・・・でも上手くいったみたいで良かったです。」
何事も無かったかのように会話する和神と士狼。そこに雷蛇と風蛇が割って入る。
「どういうカラクリか、術なのかは知らねェが、面白ェ・・・!」
「金払いはいいが、逃げ出す女を斬るだけの仕事・・・それも結局逃げ出す女もいねェから長らく誰も斬れねェでウズウズしてたトコだったんだ・・・。」
そう言いながら雷蛇は士狼に数歩近付き、風蛇は和神の前に移動した。それを見て、士狼が問う。
「いいのかい?2対1じゃなくて?」
「ハハッ!粋がるなよ、オッサン。」
雷蛇の体にバチバチと雷電が迸り、次第に頭部が人の形から蛇の物へと変異していく。
「オイオイ、いきなり本気じゃないか。」
「たりめェよ、俺らくらいになるとな、解るんだよ、相手の力量ってモンがなァ。アンタ、やり手だろ?」
雷蛇の頭部は完全に雷の如き金色の筋が入った蛇のものへと変異を終えた。シュラッという鋭い音と共に抜刀し、構えを取る。
“蛇雷剣”
バリバリッ,と雷電が雷蛇の持つ刀に走り、一瞬光に包まれたかと思うと、刀の形状が湾曲し、ショテル状に変異していた。
「ほぉ〜。」
刀の形状変化に関心した声を漏らす士狼。
「さァ、ハナから本気だ・・・。その余裕、一瞬で消してやるよ!」
バリッ!
その雷蛇が少し身を屈めた瞬間、士狼に向かって蛇行するように稲妻が走ったかと思うと、雷蛇は既に士狼の眼前にいた。
「!」
“蛇雷下牙”
雷電を伴った刀が、下から上へ向かって振り上げられる。振り上げた後、巨大な牙のような形をした雷が下から突き上げる。だが、士狼は初撃の斬り上げを後方にバク宙するように跳び退いて回避し、2階の柵の上に着地していた。同時に、跳び退いている間に半妖態への変異も終えていた。
「ほらな?やるじゃねェか・・・。」
雷蛇はそう呟くと、2階の柵に立つ士狼へ追撃を開始する。
“蛇雷上牙”
先程とは逆に、上方から刀を振り下ろす雷蛇。しかし、これを士狼は腰の短刀を逆手で抜くと同時に弾き返す。
「なん・・・だと・・・!?」
驚嘆する雷蛇。そこへ、士狼は柵から一歩で飛び出し、空中で間合いを詰める。
(マズい・・・!)
雷蛇は急ぎ刀を防御へ当てようとするが、間に合わない。士狼が短刀を正手に持ち直し、振るう。
“狼剣・群狼裂き”
雷蛇の全身を無数の斬撃がほぼ同時に襲った。




