第274話:王狼城
「・・・が、内部にはそれなりに警備がいます。」
「だよなぁ。流石にそこまで油断してるわけないよな。」
逆に安心したように士狼が言う。
「ええ。それと常駐している用心棒が2名ほど。しかし、これらの警備兵たちは皆、外敵に備えて用意されたものではありません。」
「?」
「内部からの離反者・・・即ち、使用人や寵花の脱走に備えてのものということです。なので、外部からの侵入への対応は遅れるものと思われます。」
「なるほど・・・。」
「そして、城の最上階、天守閣には城の主であり、王狼院家の現当主、王狼院長・王狼院狼真が居ます。自ら外出することは殆どないので、ほぼ確実にいるでしょう。その傍には初代金狼・金剛玖拾陸號と初代銀狼・白銀漆拾伍號が側近として常についている。この側近どもと用心棒と城の警備を全部相手にするのは得策じゃないのは言うまでもない。他の相手をしてる間に狼真に逃げられる可能性が高い。」
「二手に分かれるんだな?」
「はい。和神さんと士狼さんで1階から侵入してもらって、警備の目を引いて下さい。その間に、私と狗美で外から直接天守閣に突入します。」
「よし、任せろ!」
「・・・あの、さっきから士狼さんしか返事してないですけど、お2人も解りましたか?」
ずっと黙って聞いていた和神と狗美の方に視線を飛ばすナナミ。
「あ、はい、大丈夫ですよ。」
「ああ、問題ない。行こう。」
4人は塀の影から駆け出した。
「狗美ちゃん、もし余裕があったらでいいんだが、狼真は出来れば生け捕りにしてほしいんだが・・・。」
「?分かりました・・・出来たらそうします。」
ほどなくして城の門が見えてきた。
「和神、また封印されたりしないようにな?」
「うん、気を付ける。狗美も気を付けて。」
狗美は頷くと、ナナミと共に城の最上階を目指して跳び上がっていった。
「よし、こっちもやるぞ!」
「はい!」
士狼の鼓舞に応え、2人は門を開いた。
王狼城、最上階・天守閣
「この雨戸よ・・・閉まってるなんて珍しい・・・。」
ナナミが指した雨戸を狗美はそっと開けた。
「やあ、待っていたよ、侵入者。居住地に入って来た時から察知していた。4人だと思ったが・・・2手に別れたのか。」
「!?」
そこには銀色の着物を纏った白銀漆拾伍號と金狼部隊の鎧よりも豪奢な鎧を着込んだ金剛玖拾陸號が、来る事が分かっていたかのように待ち構えていた。そしてその2人の少し奥にある黄金に宝石が散りばめられたソファーに腰かける老人が1人。白い髭を伸ばし、これみよがしに派手な刺繍と宝石が縫い込まれた着物を着、全ての指にゴツゴツした派手な指輪をしている。その姿を確認した瞬間、ナナミはサッと片膝を着き、頭を下げた。
「!?ナナミ!?」
「王狼院狼真様!このような無礼な拝謁、どうかお許しを。私めは狼人様の第6夫人候補、七美にございます。この度は、犬神の女を狼真様に直接お届けしようとこのような手段を取らせて頂いた次第です。」
「ほぉう・・・そうかそうか、どこかで見たと思うたが狼人の嫁候補か・・・。そしてそこな小汚い女が犬神の女・・・。」
蓄えた白いあごひげを触りながら、見下した目で“七美”と狗美を見る狼真。
「七美とか言ったか、女。」
「ハッ!」
白銀漆拾伍號が訊く。
「貴様は狼人坊ちゃんの夫人候補、なれば貴様の主は狼人坊ちゃんであろう。何故狼真様の下へ犬神の女を連れてきた?」
「はい。生意気を承知で申しますが、犬神の血を王狼院家へ入れるのであれば、より優れた方との子を成すのが得策かと考え、それは狼人様よりも現当主・狼真様ではないかと思い至った故でございます。」
「ナナミ・・・お前・・・?」
「悪いわね・・・狗美。」
不敵に笑う七美に狗美は動揺が隠せなかった。




