第271話:門番
メキバキバキ・・・!
狗美の拳が門番の全身を覆う鎧の頭部を砕く。バキィ!,と鎧の顔の部分が砕け散ると同時に門番は吹っ飛び、自分が守っている門に叩きつけられた。しかし、もう1人の門番は微動だにせず、相方が襲撃を受けている事にも気付いていない様子である。そんなもう1人の門番にも攻撃が始まる。
“不知火蹴”
背に不知火の翼を生やした和神の不知火を纏わせた蹴りが門番の右側頭部に炸裂した。狗美のように鎧が砕け散らせることは出来なかったが、蹴りの威力でその場に転倒させることは出来た。
ギギギ・・・と鎧が擦れる音で狗美は自身が門に叩き付けた門番が復帰して来る事を察し、相手が完全に動き出すより早く、上半身に無数の打撃を打ち込んだ。
バリバリバキバキバキ・・・!!
門番の鎧が事もなげに破壊され、門番本来の姿が露わになっていく。
「!?これは・・・。」
その姿に狗美は驚き、一度攻撃の手を止めた。門番の鎧の中の姿、それは体の各所に“金剛妖石”が埋め込まれた金狼であった。その目は焦点が定まっておらず、最早生物の目ではなくなっている。また、他の金狼のようなガタイもしておらず、痩せ細り、生きているのが不思議な程である。
「侵・・・入者・・・排除・・・。」
意志が宿っていない声でそう言いながら狗美の方へと歩き出す。
「ッ・・・!悪いが・・・。」
狗美は辛い表情を浮かべつつ、その門番の顎を掠めさせるように拳を振るう。ここまでにも使ってきた、脳震盪を起こさせて戦闘不能にさせる手段である。だが、門番は倒れなかった。今の狗美に顎を打たれて脳震盪を起こさない者などそうはいないはずである。
「無駄よ、狗美。“そうなってる”妖にはそういうのは効かないわ。」
追い付いてきたナナミが告げる。
「ナナミ・・・これは?」
「その妖は金狼、銀狼のなりそこない・・・。使い物にならないまで実験を繰り返された妖の成れの果て。ただ死なせて遺棄するのは非効率的だって言って、死ぬ前に妖石や金剛妖石の類を直接体に埋め込んで、王狼院が指令した事だけを忠実にこなす人形にして、単純な労働力として利用する。石の妖力が尽きるまでね。」
「・・・。」
狗美は黙って拳を握りしめる。
「・・・そうなってる妖はたまに見ることはあったけど、鎧を着せて門番にしてるとは思わなかったわ。」
ナナミが銃を門番に向ける。
「ナナミ!?」
「門を開けるのに門番は必要ない。・・・それに、こうなった妖はもう助からない。さっさと葬ってあげるのが最善よ。」
「ッ・・・!」
バン!バン!バン!
ナナミの放った妖力の弾丸は全て門に当たった。門番が弾丸を避けたのである。
「チッ・・・危機回避も“門を守る”指令に含まれてたか。」
パリパリパリパリィン・・・!
門番に埋め込まれていた金剛妖石が全て砕け散った。
「!・・・狗美・・・。」
狗美が一瞬で全ての金剛妖石へ打撃を放ったのである。
「・・・こいつは助けられなくても・・・2度とこうなる奴は生み出さない。そのために今動いてるんだ。」
ガシャァン・・・!
狗美の足下へ和神が戦っていた門番が飛ばされてきた。
「クソ、駄目だ!俺らじゃその鎧が砕けねェ・・・!」
和神と共闘していた、ナナミと同時に到着していた士狼が息を切らせて言う。それは門番が普通の妖が戦えば、容易に勝てる相手ではない,という事を物語っていた。そんな門番の「鎧を狗美は容易く砕き、中の妖に埋め込まれている金剛妖石を全て割った。
「おぉ・・・流石だなぁ・・・。」
「・・・ナナミ、門を開けてくれ。」
重たい表情でそう言う狗美。ナナミは黙って頷き、門の脇にある柱へと駆けていく。
「狗美・・・大丈夫?」
心配する和神が声をかける。
「ああ・・・早く、王狼院を潰そう。」
「・・・うん。」
そこへ、近付いて来る集団があった。
「あン?何で犬神女がここにいんだ?」




