第269話:突入
「何だ?」
検問をしていた金狼の1人が森の中から聞こえた声に反応する。士気を高めた滅豪隊の「応ッ!」という声が届いてしまったのである。
「ちょっと見てくるわ。」
そう言って1歩進んだ所で金狼の身体は宙に舞った。驚き、状況を理解できないもう1人の金狼の顔面に正拳突きが見舞われ、商人の荷車へと吹き飛ばされ、激突。荷車は横転した。
「な、なんじゃぁ~~!?」
突如荷車が横転したようにしか見えていない商人は動転し、声をあげる。
「何事!?」
すぐに他の金狼・銀狼が集まって来るが、その脚や頭を妖力の弾丸が貫く。
「敵襲!敵襲!!すぐに本部に連絡を!」
金狼の1人がそう言って他の金狼2人に鳥居の中へ向かうよう指示を出す。だが、この金狼2人は目的を果たす前に地に伏す事となった。
「何者だ!貴様ァ!!」
指示を出した金狼が地に伏した2人の間に立っている狗美に怒鳴る。
「神狼院の犬神だ。」
「なに・・・!?」
その瞬間、狗美の膝が下顎を蹴り上げ、言葉を噛み砕くよりも早く顎を砕かれた。同時に、滅豪隊の隊員たちが到着し、金狼・銀狼と交戦を開始した。
「す、すまん、狗美ちゃん・・・。」
滅豪隊の掛け声で居場所がバレそうになった件で、申し訳なさそうに士狼が狗美のもとにやって来た。
「いえ、どのみち“こうする”予定でしたから。」
2分後、王狼鳥居前の制圧は完了した。
「よ、よし。本番はここからだ。滅豪隊のみんなは陽動だ、派手に暴れまくれ!」
「ぉぅ・・・!」
「うん、よし。じゃあナナミ、鳥居を越えたら城までの案内は頼むぞ。」
「はい。」
「じゃあ行動・・・」
士狼がそこまで言ったところで鳥居の向こう側から銀狼の1人が出てきた。
「おーい次の商人は・・・。」
咄嗟に狗美が顎に拳を放ち、シッ!という掠めるような音とともに銀狼はその場に倒れた。
「作戦開始・・・だな。」
その狗美の言葉とともに、一斉に王狼鳥居から王狼街へと進行を開始した。
王狼街・王狼鳥居前関所
「何やってんだ?外の連中は?」
「あれだろ?またわがままな豪族か商人が用心棒まで連れ込もうとしてんだろ?」
呑気に談笑している王狼街側担当の金狼2人。そこへ、王狼鳥居を通ってナナミが入って来た。
「何だ?狼人様の寵花じゃねぇか。」
「狼人様ならまた行きつけの飲み屋じゃねぇか?」
「・・・そう、わざわざありがと。」
ナナミが答えた直後、2人は意識を失った。その背後には、ナナミと同時に、超高速で鳥居を通過していた狗美が立っていた。
「このまま静かに城を目指した方がいいんじゃないか?」
「何言ってるのよ、すぐバレるわ。」
「貴様ら!何をしてる!?」
街のどこからともなくそんな怒声が聴こえたかと思うと、すぐに数名の王狼街の警備部隊・群狼隊が集まって来た。
「ほらね?」
同時に、鳥居を通って和神と滅豪隊が突入してきた。
「大丈夫だった・・・みたいでよかった。」
「ああ、だがすぐに行動しよう。」
入って来るなり狗美とナナミの心配をする和神。その後ろからバズーカのようなものを持った士狼が駆け出し、集まって来る群狼隊めがけてそれを放った。
ドヒュウゥゥゥ~・・・ドガァァン!!
バズーカは炸裂し、群狼隊を爆発と粉塵に包んだ。
「今の内に行こう!ナナミ!」
「はい!こっちに!」
立ち並ぶ店の屋根を跳び越えるナナミに狗美と和神、そして士狼が続く。
「小癪な!」
バズーカの粉塵から飛び出してきた群狼隊員が空中で士狼に掴みかかった。
「王狼院家のお膝元である王狼街でこのような真似、ただで済むと思ってか!?」
「ただじゃ済まないのはお前らの方だぜ、王狼院!」
2人は揉みあい、店の屋根に落ちて離れた。
「貴様ら、さては滅豪隊とかい」
そこまで言ったところで士狼の目の前から群狼隊員は姿を消した。
「行きますよ。」
狗美が蹴り飛ばしていたのだった。
「わ、悪いな・・・。」




