第268話:作戦(?)
「着きました、あそこが“王狼街”唯一の出入り口、“王狼鳥居”です。」
ナナミがそう言って視線を向ける先には、10mを超える銀色の鳥居が立ち、その前には数十名の商人と思しき妖と同じほどの数の荷車、そして一目で豪族と分かる下品で豪奢な服を着た妖が数名集まっている様子が見えた。だが、鳥居の先にはただ平野が広がっているだけで、街など何処にも見えない。
「?街はまだ先か?」
疑問を投げかける狗美にナナミが答える。
「いや・・・見てれば解る。」
「おい、次!」
金狼と見られる男が半妖態で検問を行っている。周囲には腰に鉈のようなものを下げ、黒いローブを着た警備兵が、後ろに並ぶ商人たちの荷車の中を確認したり、別の列に並ぶ豪族の相手をしたりしている。
「西入家の雅弘様と奥方の絵里香殿とその“使い”3名ですね。どうぞ、中へ。あ、用心棒の方はこの先にある宿泊施設をご利用下さい。」
粗雑に相手をされ、事細かい検問を行われている商人たちとは対照的に、豪族たちはうやうやしく接待され、スムーズに鳥居へと通される。すると、鳥居を通り過ぎると同時に豪族の姿が消えて見えなくなる。
「!」
「あれが王狼街に施されてる結界ってやつか。」
茂みに身を隠しながら、士狼が言う。
「ええ、街全体を不可視化し、かつ防衛する結界で覆い隠しているのです。通れるのはあの王狼鳥居だけ。見てわかる通り、商人はあのような厳しい検問を通らなければ街に入れません。豪族は簡単に通過しているように見えますが、豪族の検問を行っているのは銀狼で、殆どの豪族の顔を記憶しており、瞬時に“面通し”を行っているのです。また、豪族は家族以外の“使い”は用心棒や傭兵のような護衛も含めて3名までしか入れません。これは街の中での諍いや混雑を避けるためと、街の中は王狼院の警備部隊“群狼隊”によって護られているため、護衛は必要ない、という理由からです。大半の場合、豪族は今のように荷物持ち用の“使い”3名と街に入り、付いてきた用心棒は近くにある王狼院が用意した宿泊施設・・・王狼宿に泊まることを勧められますが、王狼宿は宿とは名ばかりの廃屋のため、大抵の用心棒は少し離れた廃村に残った家や洞窟で過ごしています。」
「廃村に残った家よりひどい“宿”って事かよ・・・。まあいい、用心棒や傭兵が離れてるのは好都合だ。だが、どっちにしても滅豪隊全員が紛れ込むのは難しそうだな。」
「ええ、ですが私は銀狼の“面通し”を通過できます。私の知人という事にすれば何名かは・・・。」
今後の作戦を難しい顔で話すナナミと士狼に、狗美が1つ提案する。
「・・・面倒だし、私が蹴散らして全員で突入すればいいんじゃないか?」
唐突な大胆な提案に絶句するナナミと士狼だが、すぐに切り替える。
「・・・確かに、狗美ちゃんならそれも可能・・・か?」
「・・・というより、さきほどの戦闘で我々は金狼・銀狼部隊に勝利しています。検問の金狼・銀狼はあの部隊よりも少数ですから・・・。」
作戦(?)は決まった。
「じゃあ、街に入った後だ。俺たちは街の中の様子はナナミから聞いてはいるが、実際見た事はない。だから、滅豪隊員はとにかく離れずに街で大暴れしろ。言わずもがな、これは陽動だ。本命は王狼院長がいる“王狼城”を目指す、狗美ちゃんと不死鳥の兄ちゃん・・・和神くんの少数精鋭部隊だ。俺もこっちに同行する。狗美ちゃんたちに協力を依頼した責任があるからな。当然、ナナミも先導のためにこっちに来てもらうぞ。」
「・・・はい。」
複雑そうな顔で返事をするナナミの肩に狗美は手を置き、微笑んで、よろしく頼む,と告げる。
「・・・ちゃんと付いて来てよ?」
「ああ。」
士狼は滅豪隊員たちに言う。
「よし!いよいよだ。俺たちはこの日のために集い、装備を整え、牙を研いできた!覚悟はいいな?死ぬな、戦い続けるために!行くぞ!」
「応ッ!!」




