第265話:王狼街
王狼街
王狼院家が築いた約1㎞四方に広がる華やかな街。王狼院の血族やその関係者が住む居住地と、商人や他家の豪族が取引を行う商人地とに区分けされているが、いずれも豪華な装飾があしらわれた家々が軒を連ねている。羽振りの良い富豪や商人、豪族の一家などが行き交い、大変に賑わっている。
「母さん、そろそろ新しい“使い”が必要じゃないかね?」
豪族と思われる男が妻に提案する。
「そうねぇ、あ!ちょうどあそこの店に若くて逞しい半妖の男が並んでたわ。アレにしましょう!」
「男か・・・私はあそこのほら、木の檻に入ってる化け猫の娘がいいと思ったんだが、今の侍女はもう使い物にならんでなぁ・・・。」
「そうねぇ・・・じゃあ両方買いましょうか。せっかくだし。」
「そうだね!そうしよう!」
そう言って豪族の夫婦は半妖の男と化け猫の娘を購入し、使いの妖2名に既に大量の品を乗せている荷車に2人を積ませ、更に街を練り歩いていく。もちろんその荷車を牽いているのも別の使いの妖2名である。
「でもやっぱり王狼街は違うわね~。うちの一族の街と比べても“品物”の質がいいわ~。」
「そうだね、少々派手過ぎる街の装飾もこれだけの品揃えがあれば妥当に思えるよ。」
夫婦は高笑いしながら街を進んでいった。
「相変わらずの賑わいだなァ!王狼街は!」
入れ違いでやってきたのは狼人とその部下数名であった。
「狼人様!」
「狼人様だ!」
「狼人坊ちゃん!」
王狼院家の実子である狼人は、この街では尊敬の対象であった。他家の豪族はともかく、王狼街で商売をしている商人や王狼院の恩恵にあやかっている富豪などはみな狼人を見れば一礼はしていった。
「ったくクソムカついて5人くらい殺っちまったじゃねえかよォ、クソ神狼院がッ!だが神狼院の隠し金庫を開けたって事自体が功績だって気付いたオレはやっぱ天才。それにどのみち犬神の女は捕らえてんだから、それにオレのガキ産ませりゃあ、次期当主はオレで決まりじゃね?なァ!」
狼人は側近に話を投げる。
「そうですよ、狼人様・・・。」
側近の男は通信機を使う部下を見る。その視線を追って狼人も通信機を使う部下の方を見る。
「てめェはいつまでかけてんだよ!繋がらねェなら放っとけ!あとで処罰すりゃいいだけだ。」
狼人は悠長にしているが、側近も他の部下たちも内心は不安に駆られていた。通信機で呼び出しをかけている相手は狗美を捕らえていた牢獄の見張り番と金剛壱百弐拾参號、白銀捌拾弐號で、そのうちの誰もが応答しないからである。
「仮に、仮にだぜ、“あの光”が犬神の女が出したモンで、それで犬神の女が脱走できたとして、それでどうなるよ?ア?金狼部隊と銀狼部隊が取り囲んでんだぜ?ソッコー捕まってるっつの!まあ、脱走許した牢の見張りは打ち首だけどな。ハハハ!」
だからその金狼・銀狼とも連絡がつかねえっつってんだろ,と部下たちは一様に思ったが、みな黙っていざるを得なかった。
「ちょっと一杯引っかけたら犬神女のツラでも拝みに行こうかねっと。」
狼人は呑気にも行きつけの酒場に入っていく。
「いいか、お前は連絡を続けろ。お前はすぐに牢獄の様子を確認に向かえ。」
「はい!」
側近は手早く部下に指示を出した。
「阿狼さん、やはりあの光に何か関係があるんでしょうか?」
「可能性は高い・・・だが狼人様が仰ることにも一理ある。例え犬神がどんな力を持っていたとしても金狼を相手取ることは容易ではないはずだからな・・・。不死鳥の方も封印している・・・。」
「オイ!なにやってんだ!さっさと来い!」
店の中から狼人の能天気な怒声が響く。
「はい、只今!」
側近たちは不安を抱えたまま店へと入って行った。




