第263話:狗美の両親
狗美たちと金狼・銀狼部隊との戦いはそれから15分程で決着となった。予想外の滅豪隊の戦力に対して金狼がその力を発揮できず、これに伴って銀狼も思うように立ち回れなかったという事が1つ。また、金狼・銀狼ともに早々に“頭”を失った事によって統率が取れなくなった事が1つ。そして何より“神狼院の犬神”という次元の違う存在の圧倒的な力。この3つが勝敗を決めた。
「これで最後かと。」
ドサッ,とその場に転がされたのは、銀狼特製麻酔弾を撃ち込まれた金狼であった。ナナミは王狼院から銀狼特製麻酔弾を任務に使うためと言って多めに持ち出していたのである。実際、持ち出した時には狗美に使う予定で、予定通り狗美にも使ったわけだが、“多めに”持ち出していたのは、滅豪隊に横流しするためであった。ナナミは王狼院の間諜であったが、事実上の二重スパイをしていたのである。王狼院には逆らえないと解っていながら、誰かが王狼院に反旗を翻してくれるのを願っていたのである。
「18体・・・思っていたより多かったな。狗美ちゃんがいなけりゃヤバかったかもな!あとそっちのデカいのも!狗美ちゃんから聞くまではまさかと思ってたが、モノホンの不死鳥だとはなァ!どーりで不思議な気配をしてるわけだ!」
そう言って和神の肩を叩きながらガハハ,と笑う士狼に、狗美はおずおずと口を開く。
「・・・士狼さん、滅豪隊・・・だったんですね。」
「おう!悪いな、黙ってて!何せ秘密組織って奴だからな!」
「士狼さん声デカいから秘密とか向いてねーのに・・・。」
「うるせェ!お前は銀狼の武器の押収だろがシッシッ。」
茶々を入れてきた隊員は大犬市場で会った傘化けであった。彼を仕事に戻らせつつ、話を続ける。
「あー・・・そうだ、狗美ちゃん。2つ伝えないといけないんだ。」
「?」
「1つはその・・・君の両親の事だ。」
「!」
「君の両親も滅豪隊だったんだよ。それで、その作戦中に仁狗朗・・・君の父さんは王狼院に捕まった仲間を助けるために・・・。」
「そうだったんですか・・・。母は事故だって言ってましたが、何か違う気はしていました。」
「美縫か・・・。きっと狗美ちゃんに復讐心を憶えさせたくなかったんだろうな。」
「・・・あの、もしかして母も?」
「ああ、そうだ。君の母さん、美縫も滅豪隊の仲間だった。」
「そうでしたか・・・。」
「そう・・・そして彼女も、美縫もな・・・。病で亡くなったって狗美ちゃんには言ってたけど、それも嘘だ。」
「やっぱり・・・。」
「気付いてたのかい?」
「幼心に・・・病気にしては悪くなるのが早いような・・・悪くなり方も何か変だなって。」
「そうか・・・。あれは、“呪い”だったんだ。作戦中に王狼院が雇った呪術師に仲間が呪われてな。それを助けるために呪術師を殺したんだが、呪術師が道連れの呪いをかけやがったんだ。」
「・・・フッ。」
俯いて、狗美が笑った。
「・・・2人とも、仲間を助けるために命を懸けた・・・。」
顔を上げた狗美の目は、とても澄んでいた。
「誇らしい、両親だ。」
「・・・狗美も、似てる所あるもんね。俺のために何度も危ない目にあって。」
「フフ・・・そうだな。誰かを護る時に向こう見ずになる家柄なのかもな。」
和神の言葉に笑顔で返す狗美。士狼は内心ホッとしていた。事実を伝えて大丈夫なのか,と。狗美が自分より仲間を護って死んでいったことを恨んだりしないかと。だが、2人のやり取りを見て、全ては杞憂に終わったのだと感じていた。
「・・・それで、士狼さん。伝えなきゃいけない事が2つあるって・・・もう1つは?」
「お・・・おう!もう1つはな、これからの事だ。」




