第259話:神狼院の宝
「!そ、そうかぁ、“神狼院の隠し金庫”をお開けになられたのだな!フフフフ!残念だったな、奥方よ!神狼院の秘伝は我らが得た!!」
金剛壱百弐拾参號が放った言葉に王狼院の者達は冷静さを取り戻し、安堵の声を口にする。
「狼人様が隠し金庫を!」
「ならば次期当主には狼人様が!?」
「気が早いゾ!だが、可能性は高くなったろうなァ!」
そんな中、首を傾げているのは狗美であった。
「神狼院の秘伝?」
その様子に金剛壱百弐拾参號は先程までの狼狽が嘘のように意気揚々と答える。
「そうでしたか!将来の狼人様の奥方様はご存じない?神狼院の隠し金庫の存在を!ならばご説明いたし・・・」
「いや、隠し金庫の事は知ってるが、あれの中は・・・。」
「!そうですか!では、たった今、我らが主、王狼院狼人様がその隠し金庫を・・・」
「なに!?もう一度言え!冗談か!?」
白銀捌拾弐號の声に金剛壱百弐拾参號は語りを止め、訊ねる。
「どうした?」
神狼院の隠し金庫を保管している王狼院所有の蔵
神狼院の隠し金庫は高さ8m、幅8m、奥行き8mの大きな立方体で、現在の技術では作れない合金で出来ており、壁・床の厚さは10㎝、扉の厚さは30㎝あった。これほどの強固な金庫、その中身には誰しもが形は様々であれ期待を寄せて当然の代物である。その金庫から少し離れた所で狼人の部下は通信していた。
「ですから、金庫の中身は・・・!」
「何なんだコレァーーーーー!!」
後ろで金庫の中にいる狼人が“紙”を投げ捨てながら暴れている。金庫の外には身勝手な腹いせで銃殺された部下数人の遺体が並んでいる。
「きき、金庫の中身は・・・“名簿”でした!大昔にあった神狼院の国に住んでた連中の名簿がまとめられたもの!それしかありません!!秘伝の武器も術書も入ってませんでした!!!」
「クソがァァァ!!何でだよ!何でこんな紙切れなんざ金庫にぶち込んどくんだ!!バカか!やっぱ神狼院はバカクソ一族だったってか!!クソ!」
狗美の家近く
「・・・・・隠し金庫の中身は・・・名簿だったって。神狼院の国に住んでた奴らの名簿。」
白銀捌拾弐號の力無い言葉に金剛壱百弐拾参號はじめ王狼院の手の者達みなが耳を疑った。
「・・・は?名簿?なにを言ってる?」
「だから、神狼院の隠し金庫の中に入ってたのは、名簿だったんだと。後ろで狼人様の怒鳴り声が聞こえたし、通信してきた部下の声は震えてた。冗談や間違いじゃなかろうよ・・・。」
金剛壱百弐拾参號が白銀捌拾弐號の胸倉を掴む。
「ふざけているのか?あの隠し金庫は神狼院の居城跡の地下深くに隠匿されていた大金庫だ!長年王狼院の方々が解錠せんと画策し失敗してきた鉄壁の金庫だ!神狼院秘伝の武器・術書、でなければ宝物!何にせよ“神狼院の宝”が入っているはず!!それが名簿だと!?」
「それが“神狼院の宝”だからな。」
激昂する金剛壱百弐拾参號と落胆する白銀捌拾弐號の後ろから狗美が言った。
「!!」
金剛壱百弐拾参號は咄嗟に飛び退く。
「それが・・・名簿が宝だと?」
その場に立ち尽くす白銀捌拾弐號が問う。
「名簿が、じゃない。そこに書かれている国に住む住民たちが、“神狼院の宝”なんだ。」
「ふざけるな!そうか、本当の宝を隠すための罠だな!?あんな大金庫は見せかけというわけだ!」
金剛壱百弐拾参號は狗美の言葉を信じていないようだが、白銀捌拾弐號は違った。
「なるほどなァ・・・。そういう発想か・・・。」
白銀捌拾弐號は悟っていた。隠し金庫の中身が名簿であったと聞き、それが事実だと確信した瞬間に。




