第257話:開眼
「狗美・・・狗美・・・?」
全く動かなくなった狗美を抱き起こして揺すりながら呼びかける。呼吸をしていないようにも思えるが、それは見て見ぬふりをして、今まで自分がしてもらったのを真似して妖力を送ってみたりする。だが、何をしても一切反応がない。
「狗美!」
声を張って呼びかけても、狗美は人形のように微動だにしない。自分の感情に気付くより早く、無意識の内に和神の目から水滴が零れ、狗美の頬に落ちる。落ちた雫を見て、初めて和神は自分が涙していることを知った。そしてそれが解ると、余計に涙が溢れてきた。
「狗美・・・。」
何滴も涙が狗美の頬に落ちては流れていった。
「・・・和神・・・?」
「!!」
かけられた言葉に視界を覆っていた涙を急いで拭う。視界が開けると、狗美は目を開けてこちらを見あげていた。
「狗美・・・!良かった・・・。」
「私は・・・?」
「倒れて、動かなくなって、息もしてないみたいだったよ?」
「・・・ああ、あの矢毒だ。銀狼に射られた・・・。!」
銀狼、金狼といった王狼院の刺客達から追われている事を思い出し、飛び起きる狗美。
「そうだ!王狼院に追われてるんだった!和神、逃げるぞ!」
「あ、うん!」
狗美と和神は壊れた家の壁から外へ出た。
「あ?出てきたぞ、やっぱ封印は解かれてたか!」
2人が出た先では、金狼と銀狼がそれぞれ十数名おり、家を取り囲んでいた。更に、その外側をスーツを着た王狼院の手下達が包囲している。
「ッ!遅かったか・・・。」
そう漏らす狗美の姿に、にわかにざわつく金狼と銀狼たち。
「ん?どうなっている、白銀捌拾弐號。第1夫人候補様は仮死状態で眠りについているのではなかったのか?」
「ああ、そのハズだ・・・。あの毒は確かに夫人候補殿に効いていた・・・その兆候が確かに見られた!兆候が出ればどんな妖だろうが数分で仮死状態になり、1度仮死状態になりゃ丸1日は眠り続けるハズだ・・・!」
「では何故自らの脚で立ち、我らの前にいる?」
「・・・!不死鳥だ・・・!不死鳥の涙にゃ癒しの力があるって文献で読んだことがある!あの後ろの野郎、封印を解かれた不死鳥だ!野郎が銀狼の毒を中和しやがったんだ・・・!」
(あーなるほどねー。)
和神は解説ありがとうと言わんばかりに納得していた。和神自身も不死鳥の涙には癒しの力がある,と某ファンタジー映画で観たことがあったのを思い出したのである。
「ほう、まあいい。白銀捌拾弐號、お前たちは不死鳥を再封印しろ。第1夫人候補は我ら金狼部隊が捕らえる。」
「はいよ。銀狼部隊!封印陣形肆式だ!」
「ハッ!」
白銀捌拾弐號の号令で銀狼たちは一斉に和神に標準を合わせた陣形を取り、印を結び始める。
「止めた方が良さそう!」
そう言うと和神は背から不知火の翼を展開させ、陣を組む銀狼の1人に高速で突っ込んだ。が・・・。
“地脈妖術・弐拾肆番・麻痺雷”
バチバチバチッ!
突如天から雷が落ち、和神を打った。不死鳥である以上死にはしない。だが、封印もされれば痺れもする。銀狼部隊はそれを識っていた。それ故に初めから倒す事ではなく、動きを止める事だけを考えていた。これはそのための陣形だったのである。
痺れた和神はそのまま銀狼の横を通り過ぎ、大木に突っ込んだ。
「あぐっ!」
「よし!そのままその木に封印しろ!」
痺れたまま木に叩きつけられ、その場で動けなくなる和神。そこを銀狼部隊が素早く取り囲み、封印するための印を結び始める。
「させるか!」
「それはこちらのセリフですよ!」
狗美は急ぎ和神のもとへ向かわんとするが、眼前に金剛壱百弐拾参號が立ちはだかった。・・・はずだった。
「大丈夫か?和神。」
狗美は既に和神の傍にいた。




