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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第6章:復活の神狼院 編
255/370

第255話:本能

「これが犬神本来の姿・・・!」

突然の妖化あやかしかに動揺する銀狼たちにリーダーである白銀捌拾弐號が指示を出すことで統制を取る。

「狼狽えるなァ!離れて矢で狙えェ!」

指示を聞いた銀狼たちは即座に犬神化した狗美から距離を取り、木の上や茂みから弓を構える。が、その時には既に狗美の姿は消えていた。銀狼たちが離れた時点で狗美は再び自宅へ向かって走り出していたのである。勿論、犬神化した狗美に理性はない。否、むしろ理性がないからこそ余計な事を考えずに、自身に迫る脅威が退いたのと同時に駆け出す事ができたと言えるだろう。

「くそッ!」

すぐに後を追おうとする銀狼たちを、白銀捌拾弐號が制す。

「待て。毒は既に効いていたァ。それに行き先の見当は付いてるんだ、あとは動けなくなるのを待てばいい。」

「そうだ。我らの目的は達せられたも同然なのだ。」

弾き飛ばされた金剛壱百弐拾参號が白銀捌拾弐號を肯定しつつ戻って来た。

「おやァ・・・金狼も吹っ飛ぶんだなァ・・・これは興味深い。」

「ふん、私自身が驚いている。まさか地に足が着いている状態で飛ばされるとは。人型時と犬神化した時とであそこまで膂力に差があることも想定外だった。」

「ふむふむ・・・だがそれも王狼院家にその血を取り込むことが出来れば全ては喜ばしき事だろう。フヘヘヘ・・・!」

「えェ・・・!」

不敵に笑う金狼と銀狼たち。その一方、犬神化した狗美は本能のままに森を駆け抜けていた。本能のままに、自宅を、和神の封じられている地を目指していた。それは狗美の本能が和神のもとへ向かう事を望んでいることを示している。


狗美の家・和神が封印されている地

狗美の家の形はそのままであるが、銀色の結界が周りを覆っており、更にその周囲をスーツを着た王狼院の手の者が警備に当たっている。

ガサガサッ!

「!!」

茂みから聞こえた物音に警備している男が懐から拳銃を抜き、構える。

「ニャーーー!」

茂みから飛び出してきたのは尻尾が二つに割れた猫であった。

「フッ・・・。」

安堵して拳銃を懐に戻す。その背後に、犬神はいた。

「!!?」

気付いて振り向く前に、前脚で“小突かれ”、さっき猫が飛び出してきた茂みに吹き飛ばされた。それに気付いた警備に当たっていた他の者達が集まって来る。

狗美は銀狼の毒により、既に五感が殆ど機能していなかった上、犬神化すれば暴走して溢れ出す妖力も抑え込まれていた。それでも、雑兵を蹴散らすのには十分な戦力は残っており、警備に当たっていたスーツの男たちはたちまち彼方へと吹き飛ばされていった。

それから狗美は、自宅を取り囲む銀色の結界から少し距離を取り、その身に残された全力を使って結界へと体当たりし、これを砕いた。そして、そのまま自宅の壁まで破壊して室内へと突っ込んだ。同時に、白い光が周囲へ放たれる。和神の封印が解かれたのである。それを確認したように、狗美は人型へと戻った。

和神は部屋の中で眠るように倒れていたが、封印が解かれてすぐに目を覚ました。

「ん・・・?え?寝てた?」

「よかっ・・・和神・・・。」

息も絶え絶えで上手く発声することも出来ていない言葉で、うつ伏せに倒れている狗美の存在に気付く。

「狗美!?あのナナミって人に撃たれて!?」

「違う・・・おうろ・・・来る・・・。」

「おうろ・・・ういんが来るの?じゃあ・・・。」

和神は狗美を担ごうとしたが、その身体の冷たさに驚く。

「!?狗美、これ大丈夫!?冷たいすぎるよ!?」

「毒・・・。もう・・・いし・・・。」

「狗美!?狗美!?」

狗美は静かに目を閉じた・・・。


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