第252話:金狼の力
「なッ・・・!あ・・・貴女は王狼院を愚弄するのですかッ!狼斗様の伴侶になろうという貴女が!!」
金剛壱百弐拾参號は狼狽えるように、理解できないといった様子で狗美の言葉を糾弾する。
「事実だ。王狼院のやつ、私は狼斗しか知らんが、少なくともアイツは妖力ないだろ?だから拳銃なんか持ち歩いてるんだ。」
「クッ・・・!いくら奥方となられる方でも口が過ぎる!」
「ハッ。」
狗美は呆れたように嘆息を漏らす。
「口が過ぎるだと?・・・王狼院がやってる事を考えろ。生まれる前の胎児からの実験に、そのために寵花を孕ませる・・・?」
狗美を取り巻く妖気が重く、大きく荒ぶり始める。
「・・・そのために幾つの悲しみと苦しみがあった・・・?」
「大義の為には致し方ない犠牲です、解りませんか?」
「はぁ・・・。」
狗美は先程よりも呆れた嘆息を零し、荒ぶり始めていた妖力が沈静化していく。
「もういい、話は散々聴いた。お前は完全に王狼院に心酔してるんだ、話にならない。・・・お前も被害者の1人だとは思うがな。」
「被害者?ハハハ、私は選ばれし・・・」
「ナナミ、私に掴まれ。お前も連れて行く。」
狗美は金剛壱百弐拾参號の言葉には耳を貸さず、ナナミを担ぎ上げようとする。と・・・。
「何処へも行かせませんよ。」
狗美は瞬時に反応し、七美を担いだまま跳び退いた。耳元で金剛壱百弐拾参號の声がしたからである。それは気のせいなどではなく、金剛壱百弐拾参號が急接近していたからであった。
「オオー!素晴らしい!この金剛壱百弐拾参號の迅さに反応しようとは!私は仮初にも貴女を捕らえようとしたというのに!」
「こいつ・・・。」
狗美は警戒を強める。
「狗美、金狼は肉体強化に重点を置いた実験が施されてる。アンタはアタシをどっかに連れてくつもりらしいけど、アタシはアンタに付いて行く気はない。アンタがアタシをどう思ってようが、アタシはアンタにムカついてるだけ!アンタと一緒にどっか行くなんてゴメンだわ!」
そう言って七美は力の入らない腕で狗美を押す。
「ナナミ・・・。」
「おやおや行けませんねェ?第6夫人候補とはいえ未だ寵花であるお前如きが狼斗様の奥方となるお方にそんな口を利いては・・・。」
「!」
「その生意気な顎、砕いておきましょう。」
バァァァン!!
金剛壱百弐拾参號が一瞬で接近し、七美に向けて放った踵落としを狗美が上段蹴りで食い止めた。周囲には衝撃波が放たれる。
「!?狗美・・・!」
自身を庇う狗美に唖然とする七美。
「くッ・・・!」
(重い・・・。)
金剛壱百弐拾参號の踵落としは重く、狗美の地面に着いている左足は徐々に地面に沈みながら後退していた。
「素晴らしい!全く素晴らしいですよ!人型状態とはいえこの金狼の攻撃を正面から受け止めるとはねェ!!」
猟奇的な笑みを浮かべる金剛壱百弐拾参號は更に踵落としに力を込める。その瞬間、狗美は軌道を変えるように踵落としを受け流す。金剛壱百弐拾参號の足は七美の右手前の地を砕く。狗美は踵落としを受け流した体の動きをそのまま利用して逆脚で回し蹴りを放ち、金剛壱百弐拾参號の左こめかみに左踵を見舞った。更にそこから顔面と腹部を中心に連続打撃・爪撃を浴びせる。そして最後に顔面に胴回し回転蹴りを食らわせた。驚くことに、金剛壱百弐拾参號はこれら全てをまともに受けた。だが、更に驚くことに、金剛壱百弐拾参號は狗美の攻撃をまともに受けながらもその場から1歩も後退せず、最後の胴回し回転蹴りを食らってようやく1、2歩後退りした。
「はぁ、頑丈だな・・・。」
「フフフ、やはり素晴らしい・・・!貴女の戦闘能力の高さ、そしてその攻撃を一身に受けてもビクともしないこの金狼の力!!実に素晴らしい!!」




