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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第2章:京都守護妖 編
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第25話:残された日記

 第2広場での和神わがみの“陽撃”の少し前、第3広場にて。瓦礫に埋もれた姉に語りかける陰美かげみ

「貴女が護国院から逃げ出した際、すぐに京都守護妖様きょうとしゅごあやかしさまから九尾が京を出たと報告が下りてきた。しかし私は急いで貴女様を追ったところで我らは姉妹。すぐに気配で気付かれてしまう。そのため追跡はしませんでしたが、どの道、追跡せずとも近付けばあなたさまの気配を感知することはわたしにも容易にできること。そのため貴女様の部屋を探し、貴女様が行きそうな場所に目星をつけた方が得策。方角だけでも判れば後は盤石の布陣で『お迎え』に上がれば良い,そう思っていました。しかし貴女の部屋から見つかった物は机の上に置かれた日記だけ。それも1ページ目にしか書かれていない奇妙な日記。しかし、あの日記がなければここまで護国院が押し込められることはなかったでしょう。」

 陰美は自らを戒めるように深くため息を吐いた。

「あの日記には貴女様が脱走するに至るまでの苦悩や心情が書かれていました。護国院が決めた相手とのお見合いの直後だったこともあり、隠密隊は私も含めあの日記の内容を鵜呑みにした。あのお見合いが引き金になったのだろうと。見合い相手を見ている私は尚のこと信じた。貴女様はあの日記で自らの毎日が日記に書かれている事を繰り返すだけの予定調和なものであると我々に信じ込ませたのです。だがあの日記の内容自体は嘘だろうがまことだろうが関係なかった。見るべきは日記に書かれていないことだった。我らは見落としていました。確かに貴女はあの日記の予定通りに日々を送っていたから。ですが、あの日記には書かれていない部分があった。あの日記は貴女が午前0時に脱走する日のもの。つまり脱走以前の日々における午前0時~午前6時までの行動については触れられていなかったのです。当然のように就寝しているものと思っていました。でも実際は違った。我らはまさしく狐に化かされていた。」

 ガラガラと瓦礫が崩れ、そこから陽子が姿を見せた。何とか無事な様子である。

陽子様あなたさまは密かに会いに行ってらっしゃった。京都守護妖様に。そこで何を話したのかは分かりませんが、京都守護妖様を味方につけた。脱走時に報告が下りてきたので全く疑いませんでしたが、貴女様が京に戻って来られた際、何の報告もなかったのでまさかと思った私が、急ぎ警備の強化を指示することになりました。しかし、京都守護妖様の協力は報告行わないだけではなかった。“天帝結界”を本来と逆の用途に使い、結界内の貴女様の位置を特定するのではなく、貴女様以外の全妖に貴女様の気配を探知させなくした。お陰で私も護国院本部で貴女様を待ち構えるしかなかった。」

「“天帝結界”の『反転利用』はわたしも知らなかったよ。陰美が直接狙って来ないのが不思議だった。」

 陽子が瓦礫の上に上がって言う。

「我らの誤算はそれだけに留まらず。隠密隊の各支部からの連絡で貴女様の居所のおおよその目星をつけて東京へ向かった我らでしたが、感知できるはずの貴女様の気配がぼやけて特定できず、更に貴女様の協力者・犬神とは知らずその実力を読み誤り、返り討ちに遭う始末。そしてこの京都での『大捕り物』。」

 陰美は力を込めた拳を震わせた。

「ようやく手にした隠密隊長の地位もこれで0になるでしょう。ですがせめて貴女様を捕えれば、1くらいは残るかも知れません。いえ、貴女様に勝ったとなれば、別の道も見えるかも知れませんね。」

 そう言うと、不敵な笑みを浮かべた陰美は足に妖力を集め始めた。

「陰美、大丈夫だよ。陰美はすごい才能があるんだから。最年少の隠密隊長になれたんだから、わたし・・・」

「黙れ。」

 陰美は陽子の背後にいた。

“陽撃・波動式”

 衝撃力に特化した“陽撃”に陽子は吹っ飛ばされたが、この術にはそれほどの威力はないため、空中で半回転し、陰美の方へ向き直って着地した。その瞬間―。

“縮地拳”

 高速移動術である“縮地”の威力をそのまま乗せた拳が陽子の腹部を強打した。陽子は吹き飛び、塀に激突した。

“縮地拳”

 再び高速の一撃が陽子を襲い、陽子の背後にあった塀は大きく穿たれた。吐血する陽子の耳元で憤慨している陰美が囁く。

「『才能がある』??どの口がほざく・・・!貴様に言われても皮肉にしか聞こえん!私がどんな苦労をして・・・!」

 陰美は大きく振りかぶり、陽子の顔面を殴りつけようとした。

“陽撃”

 和神の“陽撃”が塀の上から飛んできて、護国院本殿の上空を飛んで行った。

「今のは・・・“陽撃”!?犬神が?」

「ふふ・・・。」

 陽子はクスクス笑っている。

「そんな色んな表情する陰美、久しぶりに見るよ。やっぱりあの人たちと来て正解だったなぁ。」

「あの人『たち』・・・そういえば人間の男が1人いたが・・・。」

「今のは彼よ。」

「!!?」

 陰美は驚愕の色を露わにした。

「馬鹿な!人間が妖術など・・・!!」

「“受け容れし者”なら可能でしょ?」



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