第246話:狼煙屋最後の役目
さて・・・,と牢の暗がりの中、ふらつきながら立ち上がる狼煙屋狛江。
「神狼院の犬神様、どうか、どうかお名前をお聞かせ下され。」
「あぁ、狗美、だ。」
「狗美様・・・なんと素敵なお名前か・・・。狗美様、この“語れる者”狼煙屋狛江、これより最後の役目を果たさせて貰いまする。」
「!・・・何をするつもりだ・・・?」
昏き森の闇市のはずれ
十余名の妖が無残な亡骸となって横たわっている。
「これが・・・“金狼”の力・・・。」
狼斗の側近・狗旺が思わず声を漏らす。
「さすが我が王狼院家の技術の結晶ってトコだなァ!おい!」
ボンボンと黒いローブの男を叩く狼斗。
「恐悦至極に存じます・・・。」
「カンペキだ・・・!前に犬神の女とっ捕まえるときゃあ、俺の私兵どもしか使えなかったせいでミスっちまったがよォ・・・今回はこの“金狼”と“銀狼”も控えてる。それもこれもあの犬神の女が神狼院の血族だって可能性が出たお陰・・・。感謝するぜェ?俺の嫁よォ・・・!婚約する前から内助の功ってヤツだなァ・・・!!」
最早狼斗の大声を止める者はいなかった。仮に闇市のならず者たち全員が襲って来ようとも、ここにいる“金狼”1人で全て片付けられてしまう,と分かったからである。
「よォし、“金狼”の性能も確認できたところで・・・。」
と、狼斗が闇市を出ようと歩を進めた時、凄まじい光が上空に放たれた。
「あァ!?何だァ!?」
木の上で警備に当たっていた狼斗の部下が報告に降りて来る。
「報告します!遥か北の方角にて巨大な光の柱が出現!」
「光の柱だァ・・・!?」
「はっ!それが、方角と距離から察するに、狼斗様の牢獄がある地点にかなり近いかと・・・。」
「あンだと!?・・・!まさか犬神の女か!?あンの“寵花”、何やってやがる!?おい!“金狼”!お前牢獄見て来い!犬神の女が暴れてたら抑えとけ!」
「承知。」
「いいか、殺すなよ!?アレは俺の嫁だと思え!」
「承知。」
ザンッ,と“金狼”は瞬時にその場から消え去る。
「我らも向かいますか?」
「いや、俺らは“隠し金庫”だ。へへ・・・どんな秘術やら兵器やらが眠ってるにしろ、女1人黙らせるにゃ十分なハズだぜ・・・?」
不敵に下衆な笑みを浮かべる狼斗とその部下たちは“神狼院の隠し金庫”へと移動を始めた。
王狼院狼人の牢獄・外
「ちょちょちょ!何事!?」
離れて煙草を吸っていたナナミが急ぎ牢獄へと戻って来た。
「解りません!突如牢獄の中より光が・・・!」
「解りません,じゃなくて、確認しに突入しなさいよ!」
そう言って見張りをさせていた槍を背負う部下の兵を蹴りつけるナナミ。
「ッ・・・!“寵花”の分際で・・・。」
「あァ?何か言った?デク野郎。アタシが狼斗様の第3夫人になるってコト、知ってるわよねェ?」
「ッ!」
「アンタ処刑確定だから。そっちのアンタたち、付いて来なさい。」
「ハッ!」
ナナミは部下たち3名を外に残し、5名の部下を引き連れて光の柱が立ち昇っている牢獄の中へと突入した。
王狼院狼人の牢獄・内部
中に入ると、光はより強く、光の発生源である地下へ向かうにつれて光の強さも増していく。
「ナナミ様・・・!これ以上は目が・・・!」
「っ・・・!狗美・・・!・・・狗美ィ・・・!!」
部下たちは地下へと向かう階段の途中で歩みを止め、引き返す者もいた。だが、ナナミだけは強固な意志を持ち、歩みを止める事はなく、牢獄のある階層まで到達した。
「狗美ィィ!!」
まともに目を開けることが出来ない、立ち昇る強烈な光。手で目を覆いながら、ナナミはその光の発生源を指の隙間から見る。
「!!」
その光の中から1つの人影が歩み出て来るのを確認した。




