第245話:神狼の鍵
「鍵・・・?」
「哀狗様は神狼院の一族と“語れる者”となる私めに“神狼院の隠し金庫”を開けるために必要な7つの“神狼の鍵”を1つずつお渡しになられました。再会した際に互いが神狼院の者であると解るように、そして“神狼院の隠し金庫”を他者に開けられぬように。恐らく、親から子へ代々受け継がれているかと存じます。」
「鍵・・・家の扉も閂みたいなものだったしなぁ・・・。」
「“鍵”と言っても所謂錠前を開ける鍵の形はしておりませぬ、牙や爪、耳など狼の部位に準えた形状をしておりまする・・・。」
「!!」
狗美はすぐさま思い当たった。“形見の御守り”である。
「・・・両親がくれた“御守り”がそうかも知れない。牙の形をしていた。・・・が、それは多分、王狼院に奪われた・・・。」
「そうでしたか・・・。いや、気になさらないで下され、何を隠そう私めもここへ連れて来られる際に私めに託された“尾の鍵”を奪われておりますじゃ・・・。恐らく奴らは“神狼院の隠し金庫”を見つけ出し、開けようとしているのでしょう。」
「・・・その、“神狼院の隠し金庫”には何が入っている?」
「・・・それはですな・・・。」
同刻
“昏き森の闇市”のはずれ
黒いスーツの男たち十数名と闇市に相応しくない無駄に豪奢な服を着た小男が1名、話している。
「間違いねえ!この細工、この形!間違いなく隠し金庫の鍵だぜ!」
「・・・狼斗様、声を落として・・・。」
「ッるせェ、狗旺!俺に指図か!?」
「いえ、滅相もございません。」
「まぁいいぜ!俺ァ今気分がイイからな!何せこれで隠し金庫の鍵が全部揃ったんだからよォ!!」
はずれとはいえ闇市の中で高笑いする狼人に、気が気じゃないお付きたち。妖界の暗部たる“昏き森”の中でも特に危険な者が集う闇市である。“豪族”という地位がどこまで通用するか分かったものではない。
「んじゃ帰んぞ。隠し金庫を開ける・・・遂にだ!」
「ご家族に連絡を・・・。」
「いらねェよバカ!俺様が鍵を集めたんだ!金庫の中身も俺様のモンだろ!昔話でしか聞かねェ、正直俺は金庫が見つかるまでは神狼院なんざ実在もしてねェんじゃねーかと思ってたがよ!んな伝説級の一族が遺した金庫だ、中にゃとんでもねェモンが詰まってんだろーぜ!?」
「確か、神狼院とその国が有していた莫大な遺産は当時の有力者たちで分配したと・・・。」
「わーってるよ!だ・か・ら・だ!金銀財宝じゃねェ“宝”が入ってるってこった!そう、例えば秘術の法とか、なァ!!」
「狼斗様お静かに・・・。」
「るッせェ!」
そこへ黒いローブの男が舞い降りる。
「狼斗様、報告が。」
「お、どした?」
「先程“寵花”の・・・いえ、ナナミ氏が“将来の奥方様”を捕らえたと。」
「マヂかよ!ツイてる、ツイてんぞォ!こりゃ完全に天が俺に王狼院を継げって言ってんだぜェ!!」
「随分と盛り上がってるなァ・・・?」
闇市にいた妖たち十余名が狼斗たちを取り囲んでいた。
再び王狼院狼斗の牢獄
「・・・それが、隠し金庫の中に・・・?」
「ええ、それこそが神狼院の方々にとって、財よりも重要な“宝”にございます。」
聞かされた隠し金庫の中身に、狗美は暫し驚きの表情を見せていたが、飲み込めないものではなかった。
「さて・・・。」
牢の暗がりの中、狛江がふらふらと立ち上がった。




