第244話:2つの呪いの瑕疵
「哀狗様は“語れる者”の役目に名乗りを上げた私めに、つらく永い役目になる,と、気遣って下さいました。そのお言葉だけで私めには充分に過ぎる栄誉でした。
私めの決意を確認した後、哀狗様は“語れる者”がその役目を確実に果たせるよう、私めに“2つの呪い”をおかけになられました。」
「呪いを?」
「ええ、貴女様の疑問は至極当然の事でしょう。されどこの“2つの呪い”は“呪い”という役割としては大いなる欠点が存在するものでありまして・・・。
まず1つめの呪いが“三去の呪い”。これは掛けられた者の視覚・声・聴覚を奪うもの。これにより、仮に私めが嘔浪者や有力者どもにに捕まり、どんな拷問を受けようとも何の意味も持たなくしたのでございます。
次に2つめの“眠寝来の呪い”。これは掛けられた者の肉体を眠らせる、即ち不老不死と化すもの。これだけ聞けば呪いとは思えぬやも知れませぬが、呪いが解けるまで何があろうと肉体が目覚めることがない。つまり、例え火炙りにされようと、海底に沈められようと、四肢を引き裂かれようと死ぬことはない・・・正しく“不死の呪い”なのでございます。・・・通常は拷問時に使われまするが、この呪いによって、私めは今日まで生き永らえることが出来たわけでございます。
そして、この2つの呪いの呪いとしての欠点。それは“掛けられた者の願いが叶いやすくなる”というものでございます。」
「願いが叶いやすく・・・?」
「はい。“三去の呪い”と“眠寝来の呪い”、この2つを生み出したのは同じ呪術者と伝えられておりますが、失態なのか故意なのか、この2つの呪いを同じ者に同時に付与いたしますると、術式同士の一部が反発し、術を掛けられた者に幸運が訪れてしまうというのです。かつて私めが読んだ書物にはいくつかの前例が挙げられておりました。
『呪われた者が最も願う事は解呪。即ち、2つの呪い同時に掛けられし者、数日、数刻の間に解呪叶いし候。呪いし者の死、解呪の法なれば、術士死に絶えん。晴れ渡ることなれば、雨雲切り開かれ、日輪輝かん。此、彼の呪いの瑕疵也。』と。」
「2つの呪いを同時に掛けられると、呪いを解くための条件が揃いやすく導かれる・・・ってことか?」
「その通りにございます!哀狗様はこの2つの呪いの解呪方法を“新たなる神狼院の血を引く犬神が目の前に現れた時”と定め、私めに掛けることで、より早く“その時”が来るようにしたのでございます。」
「・・・それは、何年前のことなんだ?」
「解りませぬ。私めは結界を張った寺の中で呪いを掛けられてから何も見聞き出来ませぬ故・・・次第に時の感覚もなくなり・・・。」
「それは・・・。」
それはきっと、時の感覚を失うほどに永い時だった,ということだろう。そう思った時、狗美は複雑な表情を浮かべていた。
「そんなお顔をなさらないで下さいませ。貴女様が現れて下さった、生まれて下さった!それだけで私めは至上の幸福を感じているのでございます!!」
「私が、本当に神狼院の血を・・・?」
「この呪いが解けた、それ自体が貴女様が“神狼院の血を引く犬神”であられる証拠なのでございます!その為の呪いだったのでございます!寺から引きずり出されここへ連れて来られた時、役目が果たせぬのではと焦燥しましたが・・・くくく。」
「大丈夫か・・・?」
狗美は永過ぎたであろう役目を終えておかしくなってしまったのでは,と不安になる。
「いえ、嘔浪者・・・私めが寺に入る少し前には烏滸がましくも“王狼院”などと名乗っておりましたが・・・奴らめは自ら私めと貴女様とを引き合わせおったのでございます。それが何とも滑稽でしてな・・・。まさに“三去の呪い”と“眠寝来の呪い”による導きでございましょう。」
「導くのに、随分かかったと思うが・・・?」
「犬神という存在自体が、人狼の妖から極稀に生まれる奇跡のような存在です。それが神狼院の血筋から生まれる、というのはこの呪いの導きを持ってしても容易ではなかったという事でしょう。・・・ところで、貴女様は“鍵”はお持ちでしょうか?」
「鍵…?」




