第236話:狗美の実家
辿り着いた狗美の家は森の中の開けた草地に建つ、簡単な作りの木造の家であった。狗美は、王狼院の追手に家まで突き止められ、逃げるためにこの家を出たため、家に鍵をかける余裕はなかった。つまり、今日までこの家は誰でも出入り自由だったということである。
ガチャ・・・キィィ・・・。
狗美は久しぶりの実家の扉を開けた。予想していた通り、室内は荒れていた。否、荒らされていた。箪笥や押し入れが開けられ、畳は剥がされ、天井にまで穴が開いており、明らかに何かを探して物色した様子であった。
「狗美・・・?」
和神は狗美を心配した。両親との想い出がある家をこんなに荒らされているのだから当然の配慮である。
「あぁ、こんな事だろうとは思っていたからな・・・。」
箪笥の上に飾られていたであろう床に落ちた写真立てを拾い上げて見つめる狗美。その写真には両親と幼い狗美が写っている。
「大犬市場で撮ってもらったんだ・・・。写真屋が試し撮りしたいと言って来て。・・・。」
気丈に振る舞っているが、やはり辛そうなのは明らかだった。
「無理しないで。」
「大丈夫だ。この家には1人でいた時間の方が長いんだ、荒らされたからってどうという事はない。それよりさっさと“御守り”を探すぞ。」
そう言って狗美は部屋の奥にある仏間へ行く。
「ここに飾っておいたんだが・・・やはりないか。」
「王狼院が持って行ったのかな?」
「どうだろうな。ただの“御守り”だからな・・・。」
狗美は荒らされた部屋を見渡す。
「荒らしたのが全部王狼院とも限らない。その辺の盗賊とか野良妖だって入り込んだかも知れない・・・。そもそも王狼院がこの家を荒らす理由は私の所在を掴むためだろうから、こんな家探しのような事をする必要はないはずだ。」
「確かに・・・。じゃあ、どうする?“御守り”。妖界にも探偵とかいるの?」
「いるにはいるが・・・探し当てるのは難しいだろうな。何せただの“御守り”だからな。金目の物でもないから、持って行った奴が金にならないとわかって捨てていたら見つけることは出来ないだろ。」
家が荒らされていた上に両親の形見である“御守り”まで紛失していた。いずれも想定はしていた事ではあるが、それでも最悪な結果となってしまったことに変わりはない。
「一応、探してみようよ、“御守り”。陰美さんとか、そういうの上手そうだし。」
「護国院の隠密部隊を使って“御守り”探しか?ふっ、それも面白いかもな。やってくれるか分からんが。」
「陽子さんに言ってお願いしてもらえばやってくれそうだけど。」
「そうだな・・・諦める必要もないしな。気長に探してみる、か。」
狗美の頬に笑みが浮かぶ。安心から和神も自然と微笑んでいた。
「誰!?ここは他人の家よ!」
鋭い女性の声が2人の和やかな雰囲気を急襲した。
「お前こそ誰だ。ここは私の家だぞ。」
狗美は臆することなく、玄関で銃を構えた声の主に反論した。
「私の家・・・?まさか・・・狗美?アナタ、狗美なの!?」
「?」
女性は銃を腰のホルスターにしまいながら言う。
「私、覚えてない?小さいころ市場で遭った・・・。」
狗美はその女性の出で立ちをまじまじと見つめ、思い出す。
「!」
「思い出した?私、ナナミよ。」




