第232話:形見
「ずっと一緒に居られるぞ。」からの「元々私と両親で住んでいた家に一緒に来てほしいんだ。」はワンセットで言ったら何か勘違いを生むだろうな,と昨日の狗美の言葉について考えながら和神は流れていく空の景色を眺めていた。
ここは妖界上空。和神と狗美は破滅の不死鳥の一件で使った輪入道が牽く駕籠に揺られ、京からとこしえ荘近くの次元孔まで移動していた。本来この輪入道が牽く駕籠は非常時や特別な事情がなければ使わない代物であるが、本当であれば最も称賛を浴び、勲章などを貰ってもおかしくない和神及び狗美の帰還。その帰りの足くらいはこちらで用意させてくれ,という護国院長・護国院陽明の計らいによって2人はのんびり空の路を進んでいる。
「ご両親の形見、残ってるといいね。」
和神が少し離れて座る狗美に言う。
「ああ。・・・正直、望みは薄いと思っている。」
狗美が和神に自分と両親が住んでいた家に来てほしい,と言ったのは、両親の形見である“御守り”を回収したいからであった。
早くに両親を亡くした狗美にとって、その御守りは両親そのもののように大切な物で家の仏間に置いてあったのだが、狗美の持つ犬神の力に目をつけた“王狼院家”に追われて家を出て流界のとこしえ荘、即ち和神の所へ来てそのまま今を迎えてしまっているのである。狗美としてはずっと気がかりではあったが、“王狼院家”の手先がまだ家の周囲をうろついている可能性があり、1人で取りに行くには危険であるという事もあるが、単純に和神と出逢い、陽子やミネルヴァたちと出逢ってからは激動の毎日であったため取りに行く余暇が無かった,というのが最も大きな理由であった。
だが、今回やっと一段落付き、和神が“不死鳥”という大きな力を手にしたということを受けて、狗美は漸く形見を取りに行く目星が付き、和神に打ち明けた次第である。
「でも、ずっと気がかりだったなら、陽子さんたちに言えばよかったのに。手伝ってくれたと思うけど・・・?」
「彼女たちは何かと忙しそうだろ?私の私情で仕事を増やしてやりたくなかったんだ。」
「ん?俺はいいの?」
「暇だろ?ばいと?とかいうのも無くなったとか言ってたじゃないか。」
「まぁね!」
「・・・付き合いたくないなら別に・・・。」
「いやいや、嫌じゃないよ。狗美1人で行かせるの心配だし。それにやっと一緒に戦えるようになれたんだし、今まで護ってもらってた分、お返ししないと。」
「・・・護りたくて護っていたんだ、返すも何もない。・・・まぁ、これからは一緒に戦える上、死ぬ心配もないと思うと幾分気は楽だがな。」
和神はうん,と笑顔で頷いた。
「・・・・・なぁ~んかイイ感じですね~・・・。お2人は付き合っておられるわけではないと聞きましたが~?」
珠である。陽子の側近を務めている。今は護国院の使いとして2人に同行している。そう、ずっとこの駕籠には3名乗っていたのである。さも2人だけの空間であるような雰囲気で話す和神と狗美にちょっともやもやしていた珠は、恨めしそうな口調で話しかけてきたのである。そしてこれに狗美が答える。
「ああ、付き合ってもらうのはこれからだ。」
「・・・・・。」
話がややこしくなってしまった。
とこしえ荘前の道
結局駕籠が到着するまで誤解と弁解を繰り返していた。最終的には誤解は解けたようであるが、珠は謎の微笑を浮かべて輪入道が牽く駕籠と共に京へと帰って行った。
「狗美、時々そういう誤解招く発言あるから、気をつけた方がいいかもよ?」
「んーむ?よくわからん・・・。」
2人が他愛もない話をしながらとこしえ荘の敷地へと入る。
「おかえりなさいませ。」
「あ、ただいまですー・・・?」
美鳥、つまり大家さんはもういないはずのとこしえ荘。しかしそこには長い金髪を後ろで結び、金色の瞳をした白い袴姿の女性が箒を持って立っていた。
「あの・・・?」
「ああ、美鳥様からお聞きでないですか?私、美鳥様に代わり、このとこしえ荘を管理することになりました、美雷と申します。」




