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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第5章:破滅の不死鳥 編
231/370

第231話:犠牲と式典

「静かだな。」

「そうだね。たまに何か太鼓みたいな音は聴こえるけど・・・。」

和神と狗美は全員が出払った護国院の母屋で2人、庭を眺めて寛いでいた。

あの疾風との戦いから3日が経ち、七災神と破滅の不死鳥による犠牲者と癒しの不死鳥を弔う式典が各国で催されていた。流界を含む世界中の死者を悼み、遺族は悲しみに震える。同時に、生き残り、世界の危機を救った全ての関係者に賛辞を送り、今生きている事を感謝する。そんな式典である。

その式典に、最大級の貢献をしたであろう狗美と、最大の功労者であり犠牲者でもある和神が参加していない。これには政治的な問題と、和神自身の安寧の為という理由があった。

まずは政治的な理由。これは、“不死鳥”という圧倒的な戦力を実質的に日本が有しているという事が問題視される懸念があるという事。加えて、一般妖が“不死鳥”と聞いた際に最初に思い浮かべるのが“破滅の不死鳥”であるという事である。前者は妖界日本と親しくない各国との外交摩擦を生み“不死鳥を奪い合う水面下の戦争”が起こり兼ねず、後者は和神と親交のない殆どの市民の不安を煽り、国内外問わず不死鳥を探し出して封印しようとする連中まで出兼ねない。

そしてこれらの政治的問題はそのまま2つ目の“和神自身の安寧”にも関わって来る。即ち、“和神が不死鳥である”という事を広く知られる事は、和神に様々な要らぬ比喩的・物理的両方の矛先を向けさせることに繋がるのである。その矛先は和神だけでなく和神の周囲にいる者達、狗美や陽子たちにも向けられる可能性も十分に考えられる。これに“受け容れし者”であるという情報まで加われば、妖界は動乱の世となるだろう。それ故、和神は今回の式典関係には一切参加しないこととなった。若干サラがごねていたが、和神がなだめることで丸く収まった。行動に移したのはサラだけであったが、本当は陽子たちも皆和神の功績と犠牲を広く知ってほしいという思いはあった。だが、和神自身の今後を考え、口にはしなかった。

狗美については式典の主催者である護国院としては参加を望んでいたが、「和神が出ないなら私も出ない」の一点張りで不参加となった。

表向き、世間には、破滅の不死鳥は癒しの不死鳥が刺し違えて打ち倒した,という事になるらしい。


「これからみんな忙しいのかな?」

「さあな。・・・手伝うのか?」

「うーん、頼まれたら?」

「そうか・・・その時は私も手伝うか・・・。」

既に各国で復興作業が始まっていた。

“メリディエス侵攻”の復興支援に来ていた“華”の軍隊は、雷獣の出現時に一時帰国していたが、復興の為に日本に戻って来るのが先送りになることが決定。これを受けて、護国院は陰美率いる“特別復興支援部隊”を“華”に派遣し、“華”に借りを作りつつ、“華”国内の偵察も行うという何とも政治的な“復興”が。

“黒水諸島”には陽子と護国院の医療妖術に長けた者で編成された特別医療部隊が向かい、海神わだつみによって重軽傷を負った地元民の治療にあたり、流界の南極には、神斬みきり神風かみかぜによって荒れた大気を整えるべくフウが1人尽力している。

ミネルヴァは、今回の件の仔細をまとめて貴族院に報告。サンクティタス王国は日本と友好関係にあるため、和神に不死鳥の能力が宿ったことも全て報告された。

マスティマが被害を及ぼしたのはホワイトランドのみに留まったため、サンクティタス王国自体に大きな影響はなかったが、マキーナとリキッドが脱走した魔界研究所は建て替えが決定していた。彼らが脱走する際に壁や床、天井などをぶち抜いて行ったためである。彼らの身柄は、既にサラによってサンクティタス王国軍へと受け渡されていた。サラは受け渡し時、彼らの暴走は彼らの意思ではなく、七災神によって操られていたためだと進言し、彼らの無罪を訴えた。魔物の言葉など本来なら取り合わないところだが、この訴えをミネルヴァとマキーナらの研究主任・チモールが後押しした事で事情は変わり、日頃の研究所での検査への協力的な姿勢や脱走時に研究員たちを1人も殺傷しなかったことなども鑑み、重罪には問われない運びとなりそうである。

マキーナたちを受け渡した後、サラは魔界で自身の部隊を率いて、テラコッタ始め勇敢にヴォルヴァイアと戦ったオリンポスマーメイドたちの治療と労いをしている。

そう、つまるところ今回の破滅の不死鳥及び七災神の件における功労者たちは悉く式典には参加していないという事である。理由は何れも狗美と同様、和神が参加しないならば参加しない,というものであった。彼女たちは、和神が負った犠牲を和神以上に重く受け止めており、そんな彼女たちが和神の存在自体を隠した式典になど参加しようはずがなかったのである。

ちなみに、フェンリルとの戦いに勝利したグレイプニルは、更なる強者との戦いを待ち望みつつ、名前もそのままに変わらずサタンの元に留まっているという。


「・・・“不死”かぁ・・・。死なない・・・。」

「ああ。」

「自分より先に色んな人が死んでくっていうのもアレだけど、自分のやらかした事とか全部背負い続けて生きてくっていうのが地味になぁ・・・。」

「フッ・・・その地味な悩みの方は知らないが、先に言ってた悩みの方は何とかなるかも知れん。」

「え?」

「小さい頃に母に聞いたことがある。不老不死になる方法が妖界には“幾つか”ある,ってな。母は不死は要らないけど不老が欲しい,と言っていたが、もしかすると私も不老不死になれる方法がどこかにあるのかも知れない。そうなったら、私の死は看取らずに済むし・・・」

狗美はスッ,と和神の目を見る。

「ずっと一緒に居られるぞ?」

狗美は屈託も照れもない笑顔でそう言ったが、和神はとんでもなくドキドキしているのであった。


破滅の不死鳥編・完


「・・・母の事を思い出したら、少し恋しくなってしまったな・・・。・・・和神、少し付き合ってくれないか?」

「付き合う・・・?」

「ああ、私の家・・・元々私と両親で住んでいた家に一緒に来てほしいんだ。」


次回から新章突入します!

よろしくお願いします!

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