第229話:残火
“不知火拳”
上空から和神の落下速度全てを乗せた不知火を纏う拳が“人型の不知火”を急襲した。だが、寸での所で“人型の不知火”はこれを回避する。和神の拳は地面を打ち、ズドォン!!という轟音と地響きが広がる。回避行動から返す刀で“人型の不知火”は和神に斬りかかる。これを和神に続いて着地した狗美が蹴りで防ぐ。疾風との戦闘と同様の連携であった。しかし、やはり相手が違った。疾風本体ではなく、その残滓ともいえる不知火の塊には狗美の“防ぐための蹴り”でさえ威力が大きく、“人型の不知火”が剣のような形をした不知火を振り下ろす腕は霧散してしまったのである。
「ウォオオオ・・・!」
“人型の不知火”は低く不気味な声をあげる。
「ん?こいつ、脆いぞ。」
「じゃあ・・・!」
和神が追撃しようとしたが、再び“人型の不知火”は瞬間移動するように回避し、別の場所へ移動。そして、移動した先に現れた“人型の不知火”には霧散したはずの腕が戻っていた。
「!?」
「・・・やっぱり不知火以外は無効ってことかな。」
「私の攻撃では消し飛ぶだけで殺せはしない,という事か。・・・あくまでも不死鳥ではあるのか・・・それなら!」
狗美はこちらを向いたまま動かない“人型の不知火”に特攻を仕掛けた。“人型の不知火”はなんの行動も起こさず狗美の爪撃をまともに受け、腹部が霧散する。
「避けも迎え撃ちもしない・・・?」
「そうです。それが奴の厄介な所で・・・。」
“人型の不知火”を待ち構えていた護国隊と陰陽隊の隊員たちが茂みから姿を見せた。
「上から話は聞いています。狗美殿と・・・和神殿・・・ですね?我らはここで奴を迎撃する部隊の者です。奴は耐久性でいえば脆すぎる程に脆く、我らの攻撃でさえ強力なものであれば霧散するほどです。しかしながら、何度霧散させようとも次の瞬間にはあのように元通りに再生してしまう。そして封印術は効かず、近接攻撃をすれば先程のように瞬間的な敏捷性を見せ、返り討ちにあってしまう・・・ここまで護国院の部隊はその繰り返しでほぼ足止めすら出来ていない状況なのです。」
「なるほど・・・。なら、今そこで硬直しているのは珍しい状況なのか?」
狗美が指さす先には和神の方向を向いたまま動かない“人型の不知火”がいた。
「・・・!?まさか・・・止まっている!?」
「今までずっと京への歩みを止めることなどなかったのに!?」
ざわつく迎撃部隊員たちを尻目に、和神が動く。
“不知火撃”
不知火を光線のように撃ち出す。待っていたかのように“人型の不知火”は瞬間移動し、和神の背後を取る。
「そうくることは・・・!」
“不知火裏拳”
富士見島で疾風に使った“読み打ち”。和神の中にはもう美鳥の魂は完全に無くなっていたが、あの時の経験から繰り出せた。そして、疾風ほどの知性を持ち合わせていない“人型の不知火”には見事に炸裂した。
バァン!!
「ウォアアアアアアア!!」
狗美が攻撃したように霧散するのではなく、裏拳が当たった部分はむしろはっきりと実体を現し、近くにあった大木まで吹き飛び、叩きつけられた。
「ノ・・・カ・・・タ・・・ケ・・・。」
「?」
何か話そうとしている“人型の不知火”に耳を傾ける和神。
「ノ・・・タ・・・。イ・・・タ・・・ゾオオオオ!!!」
「!!」
回避の際にしか見せなかった瞬間移動の速さまではいかないもののそれまでの歩みが嘘のような速さで京に向かって“人型の不知火”は“這い”始めた。
「タ・・・ゾ!タ・・・ケ・・・ゾオオオオオ・・・!!」
しかしその速度は、“今の和神”に追いつけないものではなかった。
「これでホントに最後だ。」
“不知火裏剣”
和神は“人型の不知火”の前方に回り込み、右手から不知火の刃を逆手持ちするように形成。構わず突き進んでくる“人型の不知火”を顔面から縦に真っ二つに切り裂いた。
「ノ・・・カ・・・。」
両断され、這えなくなった“人型の不知火”は勢いを失い倒れると、そのまま静かに消滅していった。
かくして、“破滅の不死鳥”及び“七災神”の脅威はこの世から消え去った。




