第227話:不知火の火種
「みなさま!大変です!!」
輪入道が牽く駕籠に乗って現れたのは、疾風の力域の外側から富士見島の様子を確認していた隠密隊の1人、陽子を黒水諸島まで護衛した隊員・夜雲であった。
「陽子が和神の手当てをしつつ手を振る。」
(陽子様、我が名を覚えて・・・!?)
「何かあったか?」
感動に満ちる夜雲に隊長である陰美が仔細を訊ねる。
「あ・・・はいっ!たった今、京の“対破滅の不死鳥作戦本部”より通信機を介して通達!京の北、約半里・・・約2㎞弱に破滅の不死鳥の“気”を観測!徐々に力を増大させている模様です!」
「!?」
「ちょっ・・・ええっ!?今アタシらが倒したばっかのハズだけど!?」
ざわつく一同の中、陰美が冷静な意見を述べる。
「・・・先の“豪族殺し”・・・。」
「え?」
陽子が訊き返す。
「大福福士とその手練れの傭兵たちは白い炎、不知火とともに遺体が発見されました。あの時はまだ破滅の不死鳥の封印は解かれておりませんでしたが、少しずつ“気”を放出していくことによって破滅の不死鳥は外部でも自立活動する謂わば自らの化身のようなものを作り出した・・・。我々護国院はその存在を直に確認はしておりませんが、そういう存在がいるという確信はありました。ですがそれは破滅の不死鳥の復活と共に奴と同化したものと仮定していたのですが・・・。」
「それが同化せずに未だ存在しているとすれば、それが文字通り新たな“火種”となる可能性がある・・・ですね。」
陰美の言葉にミネルヴァが続け、陰美はこれに頷く。
「皆さんは休息を。」
立ち上がった和神が言った。
「自分が行きます。もし破滅の不死鳥がまた再生しようとしてるなら倒せるのは自分だけですから。」
「私は行くぞ?」
狗美の力強い表明に和神は頷く。
「私も,と言いたいところですが、今の私では足手纏いになりましょう・・・。」
「うむ・・・我も同じく・・・。存在を維持するのも簡単でなくなっていてな・・・。」
ミネルヴァとフウが身を引いた。
「わたしは・・・。」
「姉様もかつてなきほどに消耗しておいででしょう。それに京には護国隊・陰陽隊・隠密隊の本隊居ります、弱った我々がいては反って邪魔です。私と残って下さい。」
「うっ・・・。」
陽子は陰美に諭され渋々居残りを決めた。
「アタシも正直しんどくてねぇ、ごめん!埋め合わせはするから・・・“なんでも”・・・ね?」
和神に上目遣いでウインクをするサラも残ることを決めた。
「では、和神様と狗美様は駕籠へ・・・。」
夜雲が和神と狗美を駕籠へ誘導する。
「いえ、駕籠は陽子さんたちを京まで運ぶのに使ってください。」
「しかしそれでは・・・。」
和神は不死鳥の翼を背から出現させる。遠巻きに監視しているだけであった夜雲は驚き、目を丸くしている。
「!!?」
「狗美。」
「?私は水上くらい走れる。」
「狗美も相当疲労してるでしょ?不死鳥の能力を受け継いだ所為か前より少しだけそういう妖力とかの気配みたいなのが分かるようになったんだよ。」
「・・・そうか。じゃあ・・・。」
狗美は少し照れながら、和神の腕に身を任せる。そう、お姫様だっこ状態である。
「あらあらあら。」
「・・・・・。」
サラがわざとらしくリアクションする横で少し頬を赤くする陽子とミネルヴァ。
「我らも疾く駆け付ける故、無理は・・・するな?」
「はい。では、また後で。」
不知火の翼を大きく羽撃かせ、和神と狗美は不知火の火種が燻る京へと向かった。




