第219話:気付き
10mほど上空にいる疾風が左手を天に掲げる。
「させん!」
狗美が超高速で“それ”を止めに行くが、富士見島の上空に幾つもの不知火の魔法陣が展開し始める。狗美の妖力を纏った蹴りと疾風の不知火の剣がぶつかる。ドンッ!!,と衝撃波が富士見島を駆け抜ける。
「もう遅い。」
“神剣の不知火”
「!?」
疾風の持つ不知火の剣が出力を増し、狗美を外海まで弾き飛ばす。そして疾風は左手を地上にいる和神に向けて振り下ろす。
“審判の不知火【雷神】”
雷霆と不知火が混ざった巨大な白紫の光柱が魔法陣より出で、富士見島に降り注ぐ。
“タウルス~悪牛座~”
疾風の背後に、サラの槍による強烈な突きが炸裂する。しかし、その槍は疾風を貫けはせず、疾風の背中に僅かな傷をつけるに留まった。
「これでも・・・!?」
「良い不意打ちだが、貴様は、邪魔だと、言っておろうが!」
“神剣の不知火【天】”
サラは回避行動を取ったが間に合わず、疾風の“天力”を込めた“神剣の不知火”による瞬く間の斬り上げを浴び、更にサラの体がそれに反応するより早く蹴り飛ばされた。飛ばされてコンマ数秒後、サラの体は傷口から爆発した。
「フン・・・。」
バァン!!
疾風は右から襲来した脚を剣を持つ右手の甲で止めた。
「護りたかったか?“受け容れし者もどき”。」
「ッ!」
「だがそれは叶わぬ願いだ。」
疾風はすり抜けるように和神の背後へと移動した。無数の斬撃が和神を襲った。
“神剣の不知火【阿修羅】”
「ぐッ・・・!!」
かつてない激痛が和神を襲い、体験したことのない量の出血に意識が遠のき、和神は富士見島へと落下していく。そのすぐ後から“審判の不知火【雷神】”がトドメを刺さんと注がれる。
「貴様は絶望的な事実に気付いていない。貴様が不死鳥となって某を殺せる“権利”を得たからといって某が殺せるわけではない。そして、貴様が不死鳥の力を得たからといって“某が貴様を殺せなくなったわけではない”。某が貴様を葬ることが出来るという事実は、一片たりとも揺らいではいないのだ。」
落下する中、疾風の見下した声を遠くに聴こえる。だが、和神は疾風の言葉とは別の事実に気付く。自身の傷が不知火だけでなく、妖力・天力・霊力、更には魔力にまでに癒されている事に。それも、不死鳥となった能力で自身から生成されたものではなく、狗美たちから“受け容れた”力が、ひとりでに治癒を行っているのである。
「・・・幸せ、か・・・。」
人はつらい時ほど幸せを見出すのかも知れない。無論、それは幸せを与えてくれる他者と幸を感じ取れる感性が必須にはなるであろうが。
和神は自分はやはり狂っているのかも知れない、と思いつつ、富士見島の花園に落下する直前で羽撃き、直進し、再び上空へと飛び上がる。飛び立った直後、和神が落下していたであろう花園に“審判の不知火【雷神】”が凄まじい轟音と共に降り注いだ。それは島全体を揺るがすような威力を秘めていた。
「・・・ほう、生き延びたか。流石は“癒しの不死鳥”の能力を継承した者、“ひよこ”でも再生速度は侮れんというわけか。」
自分だけの力ではない,という言葉を心で留める。これは恐らく切り札になる,と思ったからある。
同時に、和神は自身が飛び立った瞬間に見た光景を気にしていた。瀕死で倒れていたはずの皆の姿が見えなかったのである。そんな心の間隙を突くように疾風は和神の背後に移動していた。
「!」
和神が気付いて振り返った時には既に“神剣の不知火”の切っ先が和神の腹部に突き立てられていた。
「させん!!」
ありえないような速度で駆け付けた狗美が“神剣の不知火”の刀身を蹴り、軌道を逸らした。そしてそのままの勢いで和神と疾風の間を駆け抜け様、身を翻し、疾風の左顔面に裏拳を食らわせた。




