第214話：狗美＆サラＶＳ疾風
美鳥が和神を背に乗せて飛び立つと同時に、サラは魔力で剣を精製する。急拵えのものではなく、しっかりとした強度を持たせたものを作り上げ、狗美は全身に妖力を纏った。
「貴様らが時間を稼ぎ、美鳥の回復を待とうというのか？愚かな。仮に美鳥が全快したとて今の某には指1本触れられまい。」
「へ・・・不死鳥を殺せるのは不死鳥だけなら、美鳥っちを待つしかないし。アタシたちはそれまでに少しでもアンタの力を削る。そんだけの話。」
サラがそこまで言うと、疾風はフッ，と失笑し、姿を消す。瞬間、空中で狗美の蹴りと疾風の不知火の剣が激突し、周囲に衝撃波が巻き起こる。
「やはり貴様だな。最も注視すべきは、犬神。以前見えた時よりも速く、強くなっている。」
「お前の相手は私たちだ、破滅の不死鳥。」
疾風の背後をサラが取り、魔剣で斬り上げるが、疾風は消え、サラの背後を取る。サラもこれに反応し、用意していた術を放つ。
“スターダスト～星崩～”
無数の細かい魔力の光が疾風を襲った。それはさながら魔力の散弾銃。疾風は瞬間移動を試みていたが、“スターダスト～星崩～”の発生速度は早く、範囲も広かった為、回避し切ることは出来ず、疾風は左半身を魔力の散弾を浴びた。だが、それらの魔力は全て疾風の纏う不知火に阻まれていた。
「ほう。」
よく当てた，と感心するように自身の半身を見る疾風の右脇腹に、狗美はすれ違うように爪撃を浴びせる。
「！」
そこへサラが剣を振り下ろし、たたみかける。しかし、これは回避され、サラは邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばされる。
「犬神の女、やはり貴様だ。」
次の攻撃へ移っている狗美を真っ直ぐと見て疾風は言う。狗美はそんなことはお構いなしにそのまま攻撃を放つ。爪と拳と膝、脚による怒涛の連続攻撃。疾風はこれを真正面から全身に浴びながら語り続ける。
「あのサキュバスの魔力の散弾は見事に某を捉えたが、速さと範囲を優先するために威力が削られたものであった。それ故某の身体にまでは届かなかった。されど貴様の先の攻撃。あれはサキュバスの魔力の散弾よりも速く、某の纏いし不知火をも裂いた。」
疾風の言う通り、狗美が爪撃を浴びせた右脇腹は不知火による再生が成されていた。
「そして今もだ。貴様の攻撃の多くは某の身体にまで届き、その攻撃速度は某に匹敵している。犬神の女、貴様は・・・。」
そこまで喋った所でサラが戻り、魔力の槍で疾風を頭上から急襲する。
“メテオライト～隕脊～”
疾風は姿を消し、サラと槍は空を切る。消えた疾風は上空に現れ、2人に向けて左手を構える。
“消滅の不知火【真】”
凄まじい規模の眩い閃光が富士見島を包む。周囲の海水は蒸発し、そこを埋めるように荒波が逆巻く。それでも、咲き誇る白い花々によって、富士見島は消え去らなかった。
“シューティングスター・オブ・ザ・レオ～獅死座流逝群～”
そして2人もまた。
「貴様は邪魔だ。」
マキーナを戦闘不能にしたサラの技を全て受け切る疾風。サラの拳による最後の一撃は疾風の身体に届いた。
「やった、届いた！」
「・・・これで漸くか。」
喜ぶサラと対照的に平静な様子の疾風。その疾風の頭上に狗美の踵落としが入る。これを受けて疾風は富士見島へと落下し、花園へ叩きつけられる。
「よっし！意外とイケるかも！？」
「いや、私たちでは殺せはしないのだ。それに・・・。」
花園で立ち上がる疾風を見る狗美。立ち上がった疾風の表情は不敵に微笑んでいた。
一方、同時刻。
富士見島から1㎞ほど離れた小島では、美鳥が陣を作成していた。
