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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第5章:破滅の不死鳥 編
213/370

第213話:飛び立った不死鳥

サラは刎ねられたミネルヴァの左腕を急いで拾い上げ、切断部に繋げ合わせる。すると、切断された腕を結合せんと、切断部から天力が滲み出してきた。サラはそれを確認して少しほっとした。まだ生きており、かつそれだけの天力が残っているという証だからである。

同時に、ガッ!という音がサラの視線を誘導した。その先では、不知火で形成された白く輝く剣を和神、美鳥に振り下ろす疾風の腕を、足を振り上げて止めている狗美の姿があった。

「・・・ミーちゃん、元気になったら他のみんなの回復ヨロね。」

聴こえているかいないか分からないが、そう言い残すと、サラは最高速度で狗美たちの元へ向かった。その気配に気付いた疾風は瞬間移動と言っていい速度で狗美とは反対側にいた美鳥の背後を取っていた。

「これはどうする?」

“消滅の不知火【真】”

“ブラックホール~黒訣~”

美鳥と疾風の間に割って入ったサラは黒い魔力の渦を形成し、疾風の放つ眩い強大な白光を呑み込んだ。その上でサラは右足で踏み込み、両手に凝縮した魔力を纏わせ、双拳突きを打ち出す。

“ジェミニ~双護座~”

しかし、これは躱され、サラと美鳥の間に移動した疾風に背を狙われる。だが、サラはこれに反応し、疾風の凶刃を咄嗟に形成した魔力の剣で止める。ところが、この一撃は重く、急ごしらえのサラの魔剣は脆くも砕かれてしまう。

「ヤバッ・・・!」

サラが貫かれる事を覚悟した時、疾風の顔面に狗美の回し蹴りが放たれる。あと数㎝というところで、疾風は移動し距離を置く。

「サラ・・・!」

「サラちゃん・・・!」

ここでようやく和神と美鳥はサラの存在を認識した。

「ごめーん、遅れて。ってそれどころじゃないよね~。」

サラの視線は疾風を捉え続けている。隣で身構えている狗美も同様である。

「よもや斯様な小娘どもが全快と等しくなった某について来ようとはな。驚きを禁じ得ん。だからこそ尚、惜しい。汝らが某の傍らに立っておらぬ事がな。」

「それ、こっちのセリフだよ。アナタがアタシたち側にいてくれればこんなメンドーなコトになってないんだから。」

「フン・・・それこそあり得ん、サタンの人形よ。汝らはそこな男の“受け容れし者もどき”の為に某の前に立っているのであろう?」

「・・・ならお前は誰の為に私たちの前に立っている?」

「・・・・・。」

狗美の問いに、疾風は暫し沈黙し、そして。

「それは貴様らが今、知る所に非ず。貴様らは此の地にて滅び、此の世界に生きとし生ける悉く死する故に。冥界にて某の宿願と“彼の者”の心を知るがよい!!」

疾風の放つ不知火がより一層強くなる。

「狗美ちゃん、サラちゃん。」

美鳥が2人に声をかける。

「・・・少しの間、1、2分くらいでいいの。時間を頂戴?」

サラは頷いた。

「アレ相手に1、2分はキツそうだけど、やってみるよ。その代わり、1、2分後にはどうにか出来るんだよね?」

「・・・ええ、恐らく。・・・いえ、必ず。」

「じゃあ、頑張る。」

美鳥は背を向けたまま無言の狗美を見る。

「・・・狗美ちゃん・・・頼んだよ。」

「・・・。」

「任せた!」

そう言うと、美鳥は不死鳥態となって和神を背に乗せ、疾風と真逆の方向へと飛び立った。小声でごめん、狗美ちゃん,と言い残したのは、和神にしか聞こえてはいなかった。


「行くよ、くーみん!しんどい時間!」

「・・・ああ、“それしかない”からな・・・。」

その時の狗美が、苦悩した表情をしていたことは、対峙していた疾風だけが気付いていたが、その真意については全く気付いてはいなかった。


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