第212話：真・破滅の不死鳥
美鳥の剣を弾くと、疾風は背後に迫っていたミネルヴァの背後に移動していた。
「！？」
“アークエンジェルアローサル”状態のミネルヴァが背中を取られるまで気付けなかった。それ程の速度で疾風は移動していた。身構えるより疾風の凶刃がミネルヴァの背を斬り裂く。天力によるバリアは展開されていたが、疾風の剣はそれをも紙切れ同然に断って見せた。
「くっ・・・！」
苦悶の表情をするミネルヴァだが、痛みを無視し、そのまま反撃へと転じる。
“エクスカリバー・エア”
振り向きざま、“エクスカリバー”の莫大な天力を斬撃に乗せて疾風に飛ばす。しかし、そこに疾風は既におらず、斬撃は空を斬る。
「ぐぅ・・・！」
その声音にミネルヴァが上空を見やると、風と同化していたフウが疾風に首を掴まれている。
「フウ様！！」
“爆の不知火【真】”
一瞬世界が白い光に包まれ、フウを掴んでいた疾風の左手が大爆発を起こした。フウは辛うじて存在を保っていたが、その身体は半透明化し、力なく花園へと落下していった。
“天狐ノ霹靂”
疾風の頭上から陽子の呼び降ろした巨大な稲妻が襲った。“天狐ノ霹靂”が周囲を閃光と轟音で包む中、疾風は陽子の背後にいた。陽子が気付くより早く陰美が護りに割って入るが、一太刀のもとに斬り捨てられる。だが、陰美が斬られた事で陽子は自身の背後に疾風が居ることを認識し、疾風から距離を取るように飛び退きながら右手から“激流”を繰り出す。
“天狐ノ瀑布”
莫大な水量の激流が疾風を飲み込まんとした・・・が、またも疾風はそこに居らず、疾風は花園で刀傷を癒しながら次の攻撃の機会を窺っていた陰美のもとに移動しており、陰美は既に血塗れで疾風の足下に跪いていた。
「陰美っ！」
「陽子様、来ては・・・。」
いけない，と口にする前に疾風の剣が陰美を襲った。
“【禁忌】空間妖術・転換”
陽子は自身の位置と陰美の位置を入れ替えた・・・はずであった。
“空間歪曲”
疾風が空間を捻じ曲げ、陰美が陽子の位置に移動することを阻害し、陽子だけが陰美の位置に、即ち疾風の眼前にやって来るだけとなってしまった。
「そんな・・・！」
止まらぬ疾風の剣に陽子は更に禁忌を犯す。
“【禁忌】空間妖術・歪の盾”
“空間矯正”
空間の歪による究極であったはずの盾は存在そのものを無かったことにされ、剣は無慈悲に2人を襲う。咄嗟に前に出ようとする陰美を陽子は無理矢理押し込め、陽子は背中から不知火の剣によって刺し貫かれた。その切っ先は陰美まで届き、姉妹はその場に力無く倒れた。
“エクスカリバー”
ミネルヴァの渾身の一撃が疾風の背後から急襲したが、疾風はそのミネルヴァの背後を取っている。動きを予期していたミネルヴァは背後から振り下ろされる不知火の剣を振り向くと同時に防ぐ。
「おかしいですね・・・？確か以前お会いした際には8割ほど戻ったと呟かれていたかと・・・。これが残りの2割だと？」
「つくづく時間稼ぎが好きな女だ・・・。」
剣圧によって吹き飛ばされるミネルヴァ。吹き飛ばされながらにして、左手を疾風へと向け、天力を込める。
ザンッ！,という音とともに鮮血が飛散した。ミネルヴァの左腕が宙を舞う。
「某の肉体の感覚が8割ほど戻った・・・と述べたのだ。あの時点では手足に軽い違和感があってな。」
“閃の不知火【真】”
一瞬の白い閃光はミネルヴァの“アークエンジェルアローサル”を引き剥がすように飲み込み、意識と身体を吹き飛ばした。ミネルヴァは花園に転がり、横たわった。
これが、サラが来るまでに起きた惨劇であった。
「何故止める！？大家さん！」
その戦いに向かおうとする狗美を、美鳥は必死に止めていた。
「貴女まで失うわけには行かないの！解って、狗美！貴女にまでいなくなられたら・・・！」
「ッ！あいつらは“いなくなってない”！！」
「愚かな、斯様な娘共で某を止められると、屠れると、本気で考えていたというのか？フェン。」
疾風が狗美、美鳥、和神に迫る。ゆっくりと歩きながら近づいて来るように見えていた疾風が、一瞬で姿を消す。
完全に疾風を見失っていた和神は自身の背後から聞こえた、ガッ！という音で疾風の位置を認識した。それは、狗美が疾風の剣を振り下ろす腕を蹴りで食い止めた音であった。
「！」
「こいつには何もさせないぞ！破滅の不死鳥！！」
一瞬驚いたような表情をした疾風は、その表情を不気味な微笑みへと変えていく。
「・・・クク・・・面白い。」
