第211話:“此処まで”
ヴォルヴァイアは跡形もなく消し飛ばされた。それと同時に、ヴォルヴァイアによる制御だけで駆動していたゴーレム軍団も一斉に瓦解し始め、1体残らず物言わぬ岩石へと還ったのであった。つい数秒前まで大規模な戦場であった場所は、一気にただの火山地帯へと戻った。敵がいなくなったことを確認したサラは富士見島へ向かうため、すぐに“デモンズスタイル”を解除し、胸元から通信機を取り出して輪入道の駕籠に乗る女性隠密隊員・霧雨へと連絡。迎えに来てもらい、戦いの後処理をテラコッタや自身の部下たちに任せ、自身は駕籠に乗り込み、その場を後にした。
「思ったより時間も魔力も消費しちゃったけど、大丈夫かな?」
そんな心配をしながら、サラと霧雨を乗せた駕籠は富士見島へと直行した。
数分後・・・。
「コッカラ奴ノ領域ニ入ルドー!」
駕籠を運ぶ輪入道が報せる。その言葉に、霧雨が驚く。
「富士見島まではまだ100㎞はあるはずですが・・・!?何かの間違いでは!?」
だが、数秒して輪入道の報せに間違いがなかったことをサラと霧雨は実感する。身体が重く、縛られるような感覚。魂が震えるような強烈な憎悪・怨嗟・殺意に身が竦む。
「こ・・・これが・・・破滅の・・・。」
隠密隊員としてそれなりの実績を積んできた霧雨が、寒気を感じ、慄いていた。
「大丈夫。アタシたちが何とかするから♪」
サラは霧雨の横に座り、肩を抱き寄せてそう言った。その行動は、霧雨に平常心を取り戻させたが、サラ自身もまた、その行動によって落ち着きたかったのであった。以前対峙した時には感じなかった程の“力”と“憎しみ”。加えて“力域”が周囲100㎞もある敵を前に、流石のサラでさえ、恐れを抱かずにはいられなかった。
「シ、島ガ見エテ来ヤシタァ~!」
「よし、ここまででいいよ。あとは自分で行くから、わニューどーと霧雨ちゃんは退避して!」
そう言って駕籠を飛び出したサラは即刻“デモンズスタイル”を発現させ、超高速で富士見島へと飛んだ。
富士見島
「!!?ウソ・・・でしょ・・・?」
左腕を刎ねられたミネルヴァ、体が半透明になったフウが花園に横たわっている。また別の場所では、陰美を守るように陽子が覆い被さって2人が倒れている。その陽子の背は何かで貫かれて酷く出血しており、陰美も意識がない様子。そして、島の反対側では立っている4名の姿が確認できた。
「愚かな、斯様な娘共で某を止められると、屠れると、本気で考えていたというのか?フェン。」
全身から膨大な量の不知火を立ち昇らせ、背に不知火の翼を展開させた“鳥人態”の疾風が狗美、美鳥、和神へと詰め寄っていた。先頭に立つ狗美は既に全身に幾つかの刀傷を負っている。
「みんながいて、何でこんな事に・・・?」
サラは今までサキュバスとして生きてきた中で最も焦りを感じていた。
数十分前。
フウの“グングニル”と陰美の“影縛り”によって動きを完全に封じられた疾風に、“聖剣の不知火”を持ち、駆け出した陽子。トドメの一撃として疾風の首筋に渾身の力で刃を突き立てた。
「彼の者の封印を解く為に“此処まで”と定めておいたのだがな。」
疾風が力を籠めると、膨大な量の不知火が全身から立ち昇る。そしていとも容易く“影縛り”を“焼き切り”、“大気を押し返した”。
「疾風・・・あなた・・・!」
渾身の力で振るわれた美鳥の“聖剣の不知火”を、片手で止めていた。美鳥の刃は膨大な疾風の不知火を破れず、疾風の掌まで届いてはいなかった。
「彼の者の封じを解く為の力。使わせた罪は償ってもらおうか。」
惨劇が、始まった。




