第210話:逆鱗
ヴォルヴァイアの放った“ノワールインフェルノ”に呑み込まれたサラとマキーナ。だが、直前でサラが魔力によるバリアを展開し、2人は難を逃れていた。ヴォルヴァイアの攻撃が終わるを待たずして、サラはバリアをそのまま衝撃波に変え、黒焔を吹き飛ばした。先ほどまで凶暴な魔獣と化していたマキーナは元通りの人の姿へと戻り、安らかな顔で眠っている。
「ギギギア・・・。」
イライラした様子で低く唸るヴォルヴァイア。
「ふぅ、やっと2人っきりになれたね?」
そんな軽口を叩くサラの頭上から5m程のゴーレムが拳を振り下ろす。
「ヴォルヴォルは友達多いんだねぇ?でもデートに友達連れて来るのは嫌われるよ?」
喋りながらサラは尻尾でゴーレムの拳を弾き砕いた。
「ま、アンタと付き合うほど男に困ってないけどねっ!」
サラはヴォルヴァイアの目の前から姿を消し、すぐさま顔面の左側に移動していた。ヴォルヴァイアが気付き、“プロミネンスサイクル”をするよりも早く、サラの鋭い蹴りが炸裂する。
“シザギー~惑星直裂~”
サラの放った蹴りはヴォルヴァイアの左頬に当たるや否や、無数に魔力の爆発を発生させ、ヴォルヴァイアはその連続する魔力の爆発に運ばれるように近くにいた10m、8mくらいのゴーレムにぶつかり破壊しながら岩山に激突するまで飛ばされ続けた。
「もう逝っちゃった?そんなワケないよね?」
「ギッシシャアアアアア!!」
嫌味ったらしいサラの言葉に答えるようにヴォルヴァイアは咆哮し、自身が激突した岩山を操り、自らの身体に纏わせ、鎧とした。
「ギシ・・・ギシ・・・ギシアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ヴォルヴァイアはブチ切れていた。自身の“力域”の影響を受けず、何の恐れも抱かずに向かって来て、普通ならば絶望するゴーレムの群れをあしらい、意図せず友軍として現れた強力な伏兵を殺さずに無力化し、あまつさえ軽口、皮肉、嫌みを口にしながら遊ぶように戦う目の前のサキュバスに。まさしく、逆鱗に触れられた龍が如く怒り狂っていた。
“ノワールスターズ”
ヴォルヴァイアは無数の黒い焔弾を口から放ちつつ、サラへと直進。
“ノワールクレセンツ”
続いて身を翻しながら腕を豪快に振り回し、無数の黒い焔の刃を飛ばす。勿論、全てサラに向けて。
「へぇ~そんなプレイも出来るんだ?でもアタシ、意外と優しくされる方が好きなんだけど。」
サラはそう言いながら飛んで来る焔弾と焔刃を、魔力のバリアを張って防ぎつつ、両手に黒い魔力の塊を出す。またも軽口を叩きながら応戦しようとするサラに、ヴォルヴァイアの怒りはより燃え盛る。
「ギシャアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオウウ!!!」
“ノワール・ド・エンド”
その名の通り、全て終わらせんとするような無数の黒い隕石がヴォルヴァイアの頭上からサラに向かって降り注ぐ。
「何怒ってるの?主導権取られるの嫌いなの?でもね?」
黒い隕石がサラに迫る。同時に、ヴォルヴァイア自身もサラを射程に捉えた。
「今キレてるのはアタシだから。」
サラは怒っていた。至極単純な理由で。両手に出現させた魔力の塊を体の前でひとつにくっつけ、融合させる。次第に魔力の塊は凝縮され小さくなり、バスケットボール程あったものがゴルフボール程度の大きさにまで縮んだ。そしてそれを、向かって来るヴォルヴァイア本体に飛ばす。
“サン~太耀~”
小さな黒い輝きを、怒り狂うヴォルヴァイアは無視して突っ込み、その小さな黒い輝きが体に触れた時、それは巨大な黒い太陽と化して、全てを飲み込んだ。周囲にいたゴーレムたちも黒き隕石も怒り狂う鎧を纏った焔龍も。サラ自身は、巻き込まれないように遥か上空へと移動していた。
サラが、抱えていた単純な怒りを口にする。
「尺取りすぎ。」
七災神・ヴォルヴァイア・・・撃破。




