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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第2章:京都守護妖 編
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第21話:VS五月雨最上

妖拳ようけん飛弾ひだん

 五月雨最上さみだれもがみは、老いを感じさせぬ正拳突きから妖力ようりょくの拳を飛ばした。宙を切って飛んだ妖力の拳を狗美は回避、反撃へ転じた。しかし、狗美の近接格闘術は悉く躱され、いなされ、放った拳の力は利用され、狗美は地面に叩きつけられてしまった。そこに容赦ない追撃が襲う。

妖脚ようきゃく踏破とうは

 最上の妖力を込めた踵落とし。寸での所で狗美は回避し、その際に最上の腹を掻くことに成功する。狗美の掻いた部分の道着は裂かれ、僅かに出血している。

 この2人の戦闘に介入する者はいなかった。すれば身を滅ぼすことを誰もが察し、介入の余地がないことも判っていたからであった。狗美の猛進に駆け付けた護国隊員は今、ただの観客ギャラリーへと成り下がっていた。

「やりおる、やりおるわ。儂を本気にする輩は今の護国院にはおらなんだ。賊とはいえ、敬意を表そう。」

 そう言うと最上は道着を脱ぎ、屈強な上半身を露わにする。右の手を腰へ、左の手を前方へと構え、足は前後へと開き、戦闘の構えを取った。

“五月雨流・常世とこよの構え”

「行くぞ。」

 一気に高まる妖気に、狗美も思わず妖気を全身から放出して備える。

“妖脚・ひらめき

 最上は一瞬にして狗美を射程に収める距離まで接近していた。咄嗟に後退する狗美に最上の一撃が放たれた。

“妖拳・常世ノとこよのかいな

 最上の右拳は狗美の腹筋を貫かんとする威力であった。狗美は吹き飛ばされ、家を3軒ぶち抜き、4軒目を倒壊させてようやく止まった。

「はぁ・・・はぁ・・・。」

 奥義とも呼ぶべき技を全力で放った最上はその場に膝をついた。

「大丈夫ですか、五月雨師匠!!」

 隊員が駆け寄る。

「後は我々が。」

「ああ、頼むぞ。」

 狗美が埋まっているであろう家の残骸を退かして行く護国隊。しかし、その手間は省けることになる。残骸の下から莫大な妖力が放たれ、残骸が隊員諸共一気に吹き飛んだからである。事態を把握できない隊員たちに家の残骸が降り注ぐ。そんな“雨”の中に佇む影を、最上と隊員らは目撃した。

後に、それを目撃した護国隊・第9部隊所属の落合しづまはこう語る。『あれは、あやかしが人型と妖の中間の姿になる“獣人状態”ではなかった。だが、獣人のように見えた。まるで、人が獣を纏っているかのようだった』と。

“それ”は一瞬で姿を消すと、次の瞬間、護国隊員を10数名吹き飛ばして最上の前に現れた。最上は瞬間的に妖状態へ変貌を試みたが時既に遅く、“それ”の一撃を浴びた。最上は吹き飛び、10数メートル飛ばされ蔵の屋根に落下し、屋根をぶち抜いて中へと落ちた。

“それ”は紛れもない狗美であった。しかし、狗美にはこの時の記憶が曖昧だった。犬神の暴走ではない、何かが狗美には起こった。が、この時はそれを考えている時間はなかった。よく分からないが、護国隊の大半は戦闘不能、残りの数名も五月雨最上の敗戦によって戦意喪失していた。これを幸いに、狗美は護国院を目指し、前進を続けた。この時は疑問に思わなかったが、狗美の身体には、五月雨最上との戦闘ダメージは残っていなかった。


一方、狗美が五月雨最上と交戦している間に、前進を試みた和神わがみ陽子ようこは、静かに護国隊を倒し、密かに護国院近くまで到達していた。しかし、隠密行動はここまでだろうという状況であった。流石に護国院外周の警備の量は尋常じゃない。恐らくは切れ者の隠密隊長の指示だろうと陽子は和神に呟く。

「陽子さんて、隠密隊長の話する時嬉しそうじゃないですか?」

「そ、そんなことありませんよ?」

 明らかにおかしい。もう少し問い詰めようとした時、2人は巡回中の護国隊に見つかった。

「いたぞー!陽子様だ!!」

 一斉に兵が集まってくる。

「仕方ありませんね。元より、中に入ってからコソコソする気はありませんでしたので。」

 陽子は左手で和神の眼を覆った。

“閃光の術”

 陽子が挙げた右手から眩い光が放たれ、兵たちは狼狽えている。その隙に陽子は門に張られている結界を破り、堂々と正門から護国院内へ進入した。

「お待ちして居りました、陽子様。」

「お帰りなさいませ、陽子様。」

 初見の和神の眼から見ても恐らく双子であろうというそっくりな2人の着物姿の美女が待っていた。

「千明、千影・・・!」

 子供らのお守り役をしていた2人であった。

「そこ、通りたいな・・・って。」

「どうぞ、構いませんよ。」

「どうぞ、お通り下さい。」

 左右に分かれて道を開ける仕草をする千明と千影。

「但しそちらの殿方は。」

「こちらで処理致します故。」

 そう言って千明は右の袖口から、千影は左の袖口から刀の刃だけを見せる。

「やっぱりね。2人が言葉を繋いで話すときは臨戦態勢のときだけだもんね。」

 陽子は和神を差し出す気など毛頭ない。よって、双子姉妹・千明千影との戦闘は避けられなくなった。

「残念です、陽子様。」

「少々痛みますが、ご容赦下さい。」

「そっちこそ、ね。」



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