第208話:ちょっと前のアタシなら
「はぁ、まったく。何やってんだろ、アタシ・・・。」
自分自身に呆れたようにそう言うと、サラはその手に持っていた魔力で形成した槍を消滅させた。
サラは思ったのである。ちょっと前の自分なら、今、マキーナの攻撃を躱した後に、もっと殺傷能力が高く“キメラモード”のマキーナの堅く分厚い皮膚を貫けるような攻撃を繰り出していただろう,と。“サンダーストーム~雷蘭~”は、見た目は派手だが、“デモンズスタイル”のサラが持つ技の中では比較的殺傷能力は低く、敵を吹き飛ばしつつ感電させることで動きを封じることに秀でた技であった。
「コイツは誰も死なせたくないから、アタシに自分ともう1人の弱点を教えた。それって誰かを殺す前に自分たちを殺せってコトでしょ?わかってる。」
わかっている。それが彼らの為でも自分たちの為でも引いては世界の為でもあって、今の自分ならそれが出来て、それが確実な手段であるという事。わかっている。だが、“今のサラ”だからこそ、違う手段も浮かんでしまう。
“殺さずに誰も殺させない手段”が。
サラはこの思考を払拭しようとかぶりを振るが、“払拭しよう”という意思そのものが本心ではないため、払拭は出来ない。
「あーあ、ミーちゃんの影響かなぁ?・・・あと和神くん?もう、責任取ってもらわなきゃ。ふふ・・・。」
ミネルヴァと和神を思い出し、ヘンな微笑みを浮かべる。
(そういえばアタシが和神くんにくっついてた時、ミーちゃん怒ってたなぁ。あれってそういうコトなのかな?)
そんな不純な事を考えている所へ、マキーナが飛び掛かり、凶暴な腕を振るう。サラはこれを難なく避け、再び距離を取る。サラが躱したことでマキーナの腕は地面に埋まっている。
「さてと、殺さずに無力化する,か。ちょっと前のアタシなら考えもしなかったけど、思い付いちゃったらやるしかないか。」
マキーナは地面から腕を引き抜くと、口を開き、そこへ魔力を集中させる。
「わお。」
マキーナの口から巨大な赤紫色の魔力の光線が放たれ、サラが立っていた場所から50m先までの地面を抉った。攻撃を予測していたサラは光線を回避し、マキーナの頭上へと移動していた。
「やるしかなければ、さっさとやるっ!」
サラは眼に魔力を集中させた。
“魔眼”
魔力を集中させたサラの眼は獣のような鋭い瞳へと変化し、マキーナの体内を移動する“コア”を捉えた。
“メテオラファイア”
同時に、ヴォルヴァイアが上空より大きな隕石のような炎弾をサラ目掛けて降らせる。
「邪魔ァ!」
サラは瞬時に魔力で大きなメイスを形成すると、“メテオラファイア”にこれを振るう。しかし、その時、サラの背後にリキッドが迫っていた。スライム状の体から長剣を取り出し、腕だけを魔人のものに戻してサラへと襲い掛かる。
「邪魔ァ!って言ったのは、アンタによ!」
サラは迫り来るリキッドの存在を把握していた。そして、メイスを当て、砕いた“メテオラファイア”をリキッドの方へと飛ばした。リキッドは飛んで来る“メテオラファイア”の破片を長剣で斬って難を逃れていたが、その背後(スライム状のため、実際に背後かは不明だが)をサラが取った。
「まずアンタから、ねっ!」
サラは魔力を込めた腕をリキッドの体内にぶち込み、“コア”を掴んだ。
“雷神ショック”
バリバリバリィ!!というけたたましい音と激しい雷の明滅がリキッドの“コア”をダイレクトに襲うと、スライム状であったリキッドの肉体が元の人型のものへと戻った。意識は失っているが、絶命はしていない。
「よしっ!これでイケるわ!手伝ってくれてありがとね、ヴォルヴォル♪」
サラの皮肉に、ヴォルヴァイアは怒りの炎を滾らせた。




