第207話:封印されていた事の副産物
ヴォルヴァイアは驚いていた。マキーナとリキッドの存在に。
ヴォルヴァイアは直接的な攻撃、ブレス、羽撃きなどの自身の取るあらゆる行動の際に、自身の細胞をばら撒く性質を備えている。これは、大抵の生物がその唾液や皮膚にDNAを含んでいるのと同じ事であるが、ヴォルヴァイア最大の特徴(戦力と置き換えてもいいかも知れない。)は、このばら撒いた自身の細胞を“どんなに時が経とうとも、自在に操れる”という事にある。数千年前、封印されるより以前に暴れ回っていた時にばら撒いていた細胞。それが、蓄積されたものこそがオリンポス火山の表層であり、この表層の岩石がヴォルヴァイアの咆哮によって操られ、動き出したものがゴーレムたちの正体である。
だが、ヴォルヴァイアが作り上げた火山地帯はオリンポス火山だけではなかった。ヴォルヴァイアが作り上げたもう1つの火山地帯、それこそがメリディエス火山地帯なのである。当然、メリディエス火山の岩石にはヴォルヴァイアの細胞が含まれており、メリディエス帝国軍はそうとは知らず、ヴォルヴァイアの細胞に含まれた魔力の宿った岩石を“魔石”と呼び、魔力の弱い自分たちを補い強化する素材として利用してきたのである。そして、その“魔石”をコアとしてその身の中核に使っていた“キメラモード”を使用できるメリディエス帝国兵は、ヴォルヴァイアが呼びかければいつでもヴォルヴァイアの為に働く傀儡と化してしまったのである。こんな事態は彼のアダマス元帥も想定していなかったであろう。何故なら、彼がもし存命ならば彼もまた例外なく傀儡として操られていたのだから。
この“想定外”は、ヴォルヴァイアにとっても想定外であった。ヴォルヴァイアは、自身の細胞を操れることは知っていたし、ゴーレムを精製できることも知っていた。しかし、まさか自分の細胞が宿る石を身に宿す者がいるなどとは考えもしていなかったのである。これは、“ヴォルヴァイアが封印された”という事象が生んだ副産物に他ならない。もしヴォルヴァイアが封じられていなかったら、恐らくメリディエス火山地帯にメリディエス帝国は誕生しておらず、そこにある岩石を魔石として利用する,という発想そのものが生まれなかったからである。
ヴォルヴァイアは、封印もされてみるものだ,とほくそ笑み、初めて封印されたことを少し愉快に思っていた。そして、漸く“手に馴染んできた”新しい手駒に指令を下す。
「ギシャアアアアアオオオオオウ!!」
ヴォルヴァイアの咆哮と共に、マキーナの眼が紅く光り、マキーナもまた咆哮する。
「ウォオオオオオオオオオオオオ!!」
「・・・・・。」
そのマキーナの様子をサラは珍しく静観していた。そんなサラの背後をマキーナは一瞬で捉える。鋭く凶暴な爪がサラの艶やかな背中に襲い掛かる。
“フレアフレグランス・柔軟在配剛”
対峙していたスライム状のリキッドのように、サラはマキーナの攻撃に沿うように無駄のない挙動で回避する。そのままの流れで自身の腕に魔力による電流を纏わせる。
“サンダーストーム~雷蘭~”
サラは突き出した腕の先から巨大な黒い雷撃の渦を放った。バリバリバリ,とまるでそこに雷雲が逆巻いているかのような轟音を伴う攻撃は、マキーナを飲み込んだが、その動きは止まらず、構わずにサラに攻撃を継続する。サラは攻撃を止め、後方に跳び退いた。
「はぁ、まったく。何やってんだろ、アタシ・・・。」
自分自身に呆れたようにそう言うと、サラはその手に持っていた魔力で形成した槍を消滅させた。




