第206話:異形の存在たち
サラはヴォルヴァイアの咆哮によって召喚されたゴーレムたちを退けつつ、ヴォルヴァイア本体との交戦を続けていた。時折入るゴーレムの妨害は鬱陶しいものであったが、それでも終始サラが優勢を維持していた。サラの連れてきた軍勢もゴーレムたちに後れを取ることはなく、決着は時間の問題かと思われた。
しかし、そこへ突如奇襲をかけて来たのが異形の存在2体であった。1体は悪魔如き歪曲した角と、背中に黒い羽毛に覆われた巨大な翼を生やし、鋭く獰猛な爪と牙を持った4本腕の黒き獣人。もう1体は体をスライムのように変異させ、様々な武器を自在に繰り出す奇妙な魔物である。
「もー!何!?何でここで絡んでくるワケ!?空気読んでよ魔物!」
怒りながらも異形の存在たちの攻撃を躱しては反撃するサラ。だが、この異形の存在たちはまるで効いていないかのように攻撃を続けてくる。
「・・・もしかしてコイツらもヴォルヴォルに呼ばれて来たカンジなのかな?」
サラはふとそんな考えを過らせる。その上空からヴォルヴァイアの黒い炎弾が飛んで来る。これをサラは手に持った槍で軽く打ち払う。
「なんにしてもメンドいなぁ。」
3対1の状況に“デモンズスタイル”のサラは劣勢にこそならないが、獣人とスライム、ゴーレムたちの妨害によって地上に足止めされ、上空で悠々と傷を癒しているヴォルヴァイアへ攻撃出来ずにいた。
(・・・って言っても、アタシの軍勢じゃ正直手に余るよね。特に獣人。ホントはもっとスゴい力持ってそうなのに、出して来ないカンジ。いや、出せないでいるカンジ・・・。とにかくコイツはアタシがやんないとかぁ。スライムの方は単にメンドいだけだけど・・・。)
そんなことをサラが考えていると、急に、獣人が頭を抱えて唸り始める。
「ウ・・・ウウウウッ!ウウ・・・!!」
「なになに今度は・・・。」
サラが獣人に気を奪われている間にスライムがサラの背後から銃を突きつけるが、サラは瞬時に銃を破壊し、魔力を込めた槍で一蹴する。その槍の軌道に沿って形を変え、威力を無効化するスライム。
「だああ!それがメンドい・・・」
そうサラが言いかけた瞬間、凄まじい突風によってスライムはかなり遠方へ吹き飛ばされた。
「おおう!?なに?」
驚いたサラが突風が吹いた方を見ると、そこにはさっきまで唸っていた獣人がいた。
「え・・・どゆこと?」
「ウ・・・ワタ・・・シハ・・・」
「え、喋ってる?」
「ワタシ・・・は、元メリディエス帝国軍・・・大将、マキーナ・メリディエス・オニキス・・・!」
「メリディエス帝国大将・・・って、えーーー!何でここにいんの!?アンタ確か・・・。」
「聞いて!私が、正気でいられる時間は短い・・・。ここまではどうにか私の“キメラモード”の“真価”を発揮させないように抑えて来ましたが・・・あの黒龍にもう少し強く操られれば、それも叶わなくなる・・・!そうなれば、貴女は今以上に苦戦することになる!」
「マジで?」
「ウ・・・!」
マキーナは再び頭を抱え出す。
「ちょちょちょ!え、もう!?」
「ウ・・・私が取り込んだ魔物は多種に渡る。故に弱点はない!なくなるように計画されて作られた。・・・だが、“キメラモード”そのものには共通の弱点、が、ある!」
「おおお、それ教えて!」
「ウウ・・・コアです!我らにはコアが存在する!私にも、もう1人の・・・リキッドにも!しかし、我ら両者ともにコアは体内を移動させる能力を有して・・・ウ、アア・・・!!」
「ちょっと!しっかり!」
「自分では出来ない!あの黒龍は自決を許可しない・・・!だからどうか、貴女が、私たちを・・・!誰も殺めたくはないのだ!故に降伏、亡命したのだから・・・!!ウウウ・・・アアアアア!!!」
「・・・・・。」
「ヴオオオッ!!」
マキーナの意識は獣人へと戻った。だが、その意志をサラ確かに受け取っていた。




