第205話:大気の槍と影の呪縛
天力を纏わせたミネルヴァの愛剣と疾風の“聖剣の不知火”がぶつかり合う。
「剣を手にし、思い上がったかエルフの娘。貴様の力では・・・!」
疾風が高速で動き、全方位からミネルヴァに攻勢を掛ける。
「大天使の加護があろうと某には及ばぬと、先に思い知ったであろう。」
疾風の猛攻をミネルヴァは辛うじて防ぎ、受け流していく。
(マスティマよりも、速く・・・そして重い・・・!)
“陰陽術・風遁・春一番”
ミネルヴァの危機に陽子は2人をまとめて強風で吹き飛ばした。
“ゼピュロス・ブレット”
吹き飛ばされながらにミネルヴァは疾風の気を自動追尾する天力の弾丸を複数射出した。だが、疾風は既に陽子の眼前にいた。そもそも陽子の術で吹き飛ばされていなかったのである。
「残念だ、九尾。」
「それは、こちらのセリフです!」
“狐徹”
陽子は狐火で刀を精製し、疾風の聖剣を受け止める。
「無駄だ、汝には武術の才はない。」
「わかっています。」
そこへミネルヴァの放った“ゼピュロス・ブレット”が到着する。察知した疾風はこれを回避し、跳び退いた。
“狐徹・草薙”
陽子が掲げた狐火の刀が、雲まで貫かんとする程にその刀身を伸ばす。そしてそのまま疾風へと振り下ろす。陽子の振り下ろした刀は海をも斬り裂いて行った。
「遅い。」
しかし、疾風は陽子の背後を取っていた。“陽撃”を放たんとする和神を蹴り飛ばし、陽子の首筋に聖剣を振るう。
“風刃百連陣”
頭上から夥しい数の風の刀や剣が全身に突き刺さり、疾風の聖剣を振るう腕は止まった。
「・・・精霊か。」
動きの止まった疾風に、姿を隠したままのフウは追撃を仕掛ける。
“グングニル”
フウは細長い風の槍を疾風に放った。それは尋常ならざる速さによって一瞬で疾風の背を貫き、大地へと突き刺さる。すると同時に、疾風の全身を凄まじい重力が襲う。
「ぬう、これは・・・!?」
それはただの風の槍に非ず、謂わば“大気の槍”。貫いた者・物にその槍に込められた大気圧を付与するという、フウ渾身の一撃であった。
「この、程度・・・!」
(周囲の大気が全て某にのしかかっている・・・!?“自爆の不知火”を用いたところで自らを焼き兼ねんか・・・。)
疾風が“グングニル”に手擦っている間に、疾風の上空に梵字で形作られた紋様が浮かび上がり、光輝き始める。その輝きによって花園に色濃く映し出された疾風の影から、黒い手のようなものが素早く疾風の手足を捕らえ、影に縛り付けようとする。
「くっ・・・!」
“影縛り”
陰美が海上に結界を張り、その上から術を発していたのであった。
ザバァン!
水飛沫と共に、海中から狗美が美鳥を伴い富士見島に上陸した。
「全く、海中では鼻は利かないというのに・・・。」
「・・・ごめんね、狗美さん。」
「・・・大家さんには、世話になってるからな。」
狗美に肩を借りてやっと立っている様子の美鳥が、狗美の腕から離れ、“聖剣の不知火”をその手に握る。フウの“グングニル”と陰美の“影縛り”によって完全に動きを封じられつつある疾風に、美鳥は刃を突き立てる。
「終わりにしましょう、疾風。」
美鳥が疾風に向かって駆け出す。
数十分前。
魔界・オリエンス王国領南・オリンポス火山地帯
「ちょっと何!?アンタ誰!?」
ゴーレムたちを退けつつヴォルヴァイアと交戦していたサラは、異形の存在の襲撃を受けていた。




