第204話:陽子VS疾風
周囲100m程の花園だけとなった富士見島に、陽子がゆっくりと降り立ち、和神に掛けていた“二十重盾結界【八面式】”を解除する。
「陽子さ・・・んっ!」
和神が七災神との戦いを乗り越えて駆け付けてくれた事を喜び、感謝するよりも早く、陽子が和神の懐に抱き着いていた。
「よかったです・・・。ご無事で・・・。」
「・・・はい。大家さんのお陰で。」
2人は互いの無事を確認するという名目のもと、至近距離で少しだけ見つめ合う。そんな2人の邪魔をするかの如く疾風の声が響く。
「フハハハ。素晴らしいぞ、流石は九尾。現代においてもその潜在能力は変わらぬようだ。あまりの破壊力に遂生身で受けてしまった。」
そう言う疾風は何もない空間に生じた不知火の種火から少しずつ人の形へと再生していた。
「どうだ、九尾の娘よ。某が作る新たなる破滅の軍勢に加わらぬか?その術、その能力を遺憾なく発揮できるぞ?これほど清々しい事はあるまい。」
“水面の獄”
陽子の妖力と霊力によって、海面が波打ち、その波が再生途中の疾風を飲み込んだかと思うと、そのまま波は立方体へと変化し、その内に疾風を捕らえた。
「これが答えか。・・・残念だ。」
ズドッ!
美鳥が背後から不知火の剣で“水面の獄”ごと疾風を突き刺した。
「終わりね、疾風。」
「温い。」
疾風は早くに再生させていた右腕で美鳥の剣を防いでいた。
「そんな!?水面の獄の中で動けるなんて!」
「某を、甘く見過ぎだ。」
“自爆の不知火”
不知火による大爆発が起き、“水面の獄”は破壊され、美鳥は海へと投げ出された。そして瞬時に和神の背後に不知火が収束した。これを感じ取った陽子は和神の腕を引き、自らが前へ出る。
「愚かな。」
慈悲なき“聖剣の不知火”が陽子を襲う。
“妖剣”
妖力で作り出した剣で“聖剣の不知火”をかろうじて防いだ陽子だが、疾風の力と不知火の力にじりじりと押され、“妖剣”も少しずつヒビが入っていく。
「くっ・・・!」
「貴様も美鳥と同じ、力はあれど戦いを好まず。故に戦いに不慣れと成りて力が勝る者、等しき者に後れを取る。」
ビシビシ・・・,と“妖剣”に大きな亀裂が走る。
「平和という言葉に甘え、戦わず破壊を伴わず生きてきた者は、滅ぶのみ!」
ドスッ!
疾風の首が美しき剣にて貫かれた。
「それの何がいけませんか。平和を望み、要らぬ戦は回避し、破壊を忌避して生きて行く。それの何がいけないと言うのか!」
“アークエンジェルアローサル”
「陽子さん!」
ミネルヴァの掛け声に察した陽子は“妖剣”を瞬時に消し去り、タックルするように和神をミネルヴァの剣の“直線上”から退避させる。
「キ・・・サマ・・・!」
「マスティマは天へと還りました。」
“アヴァロンズシャイン”
ミネルヴァの愛剣から放たれた光は、以前に放った“アヴァロンズシャイン”よりも遥かに大きく、熱く、美しかった。疾風は再び地上から姿を消した。
「ミネルヴァさん。」
ミネルヴァの無事に安堵する和神。
「遅くなりました。しかし、これは一時凌ぎでしかありません。ッ!!」
ミネルヴァは振り返ると同時に剣を振るい、“聖剣の不知火”を弾く。
「フン、同じ思いをさせてやろうと思ったのだが、そんなに愚かではなかったか。」
全身を不知火が包んでいる疾風がそこにいた。
(再生速度が上がってる?)
「ミネルヴァ様!再生するのが早くなっているように感じます!」
和神が思っていた点を陽子が口に出した。
「ほう。やはり馬鹿ではない。否、惜しい。故に惜しいのだ。汝らがこの世界に執着してしまっている事が。やはりこの世界は罪深い。」
「いいえ。罪深きは罪深き個人でしかありません。そしてその中には貴方も含まれている。」
「何も知らぬ小娘が、図に乗るな。」




