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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第5章:破滅の不死鳥 編
202/370

第202話:受け容れし者とは

富士見島に着く前、美鳥が和神に告げた作戦が今、発動した。その作戦とは、『富士見島に入る前に和神は自身の“存在”を“受け容れる”ことで、自身の気配を完全に消して身を隠し、美鳥が疾風との戦闘で死亡するほどの危機に陥るか、もしくは七災神を打ち倒した誰かが駆け付けて疾風に隙が生まれるまで一切手出しをしない事』であった。

“自身の存在を受け容れる”など、かつて経験のない事であると思った和神であったが、美鳥は大家として“とこしえ荘”にいた際に幾度も和神の気配に気付かない事があったという。取り分け大柄な和神の存在に声を掛けられるまで、一切気付かないこともざらにあった。こういった過去から、美鳥は和神は既に自身の存在を受け容れる術を心得ている,と確信していたのである。実際、和神はぶっつけ本番で疾風に一撃を見舞ったのだから、美鳥の考えは正しかったわけである。

出来ることならば、誰かが駆け付けてから姿を現す方が良かったが、疾風の戦闘能力は美鳥の想像を超えていた,と言わざるを得ない。

「大家さん、しっかり。」

和神は自身に宿る力の中で最も多い、妖力を美鳥に受け渡そうとするが、美鳥はこれを拒否する。

「だめ、和神くん。和神くんが受け容れた力は和神くんの為に使って。今この戦場で一番死んじゃいけないのは和神くんなんだから。」

「でも、大家さんがいないと疾風は・・・。」

そう話す和神の背後で、吹っ飛ばされた仰向けで倒れていた疾風がゆっくりと宙に浮かび上がるようにして起き上がった。

「“妖拳”・・・某の時代に既に存在していた技。技というにはあまりに原始的かつお粗末なものだが、それ故に絶対的に安定した効力を有する・・・か。」

冷静に語る疾風の眼は和神を鋭く見据えている。

「人間・・・“力を持たぬ者達”。・・・それが“妖拳”を振るう。妖力を使う・・・のみに留まらず、その身には霊力、天力、魔力まで備えている。」

疾風は俯き、肩を震わせる。

「フハハハハハ!よもや此の時代にも存在しているとはなッ!“受け容れし者”!!」

何の迷いもなく“受け容れし者”と断言する疾風。和神は自身の“受け容れし者”という存在そのものに驚かなかった者に初めて相対した。

疾風は和神をまっすぐ見据える。

「“受け容れし者”よ、問おう。汝は何故なにゆえに某の前に立つ。フェンを殺してほしくなかったか?」

いきなり斬りかかって来ることも覚悟していたが故に、突然の質問に和神は少し驚く。

「・・・確かに、それはそうだね。大家さん・・・この人には死んで欲しくない。」

「そうか。・・・某はその女に恨みがあるが、・・・まぁ、殺さずともよい。」

「!?」

意外な反応に驚く和神。

「そもそも某の目的はフェンを殺すことに非ず、世界を破滅させることに在り。その女の妨害が確実なものであるが故に先に始末せんとしたに過ぎぬ。されど、現代の“受け容れし者”よ。汝がフェンに某の邪魔をせぬよう計らうならば、フェンと汝は生かしておいても構わぬ。」

“破滅の不死鳥”は甘い誘惑とも言える提案をしてきた。だが、この提案の内容は詰まる所、“個人”と“世界”どちらを優先するか,というものに他ならない。それは、既に和神が解決し、覚悟し、“置いてきたもの”であった。

「悪いけど、自分と大家さんだけ残っても仕方ないから。」

「ほう。汝には他に重宝する者がいると?」

「まあ、何人か。」

「ならばその者らも生かしてやろう。」

「・・・その人たちは、自分たちの生きる国とそこに住む人達と、それらに関わる人や国・・・世界を護りたいと思ってる。だから、俺も世界を護らないといけなくて。あの人たちが苦しんだり悲しんだりする顔は見たくないから。・・・そう、だから俺は、ここに立ってる・・・かな。」

「!」

和神の言葉を聞いた疾風の脳裏に別の者の言葉が過る。


「みんなが苦しんだり悲しんだりしてる顔、見たくないから。みんなが少しでも楽になれるなら・・・。」


疾風は再び俯く。

「そうか。ならば貴様は、“受け容れし者”ではない。」

「!?」

鋭く和神を睨む疾風。

「“受け容れし者”とは即ち“総てを受け容れし者”!某の前に立ち、某を“拒絶”する貴様は、“受け容れし者”などではない!!」

この言葉に対し、美鳥が反論する。

「待って、疾風!“受け容れし者”が皆、総てを受け容れる必要なんかない!受け容れるものを選択して受け容れていいの!むしろそうあるべきだわ!!」

「黙れ!フェン!!“の者”を見捨てた貴様に語る資格などない!」

不知火の刀身を構え、宙に浮かび上がる疾風。

「戯言は終いだ、フェンと“偽りの受け容れし者”よ。貴様ら2人、ここで滅びよ。」


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