表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第5章:破滅の不死鳥 編
199/370

第199話:光より速いもの

陰美が呟く。

「すまない、李快天殿。」

雷獣の全雷ぜんかみなりを総動員した落雷は李快天を真っ黒に焦げた遺体と変えていた。くだんの雷獣は、その一撃によって放電し切ったらしく、再び自身に雷を落として蓄電を始めていた。陰美は壁を支えにゆっくりと立ち上がり出す。

(だが、これが国防というものだ。李快天あなたはともかく、は信用ならんのでな。メリディエスの侵攻の事後処理・復興支援に来たことすら疑わしいものだった。もっと早く、“戦闘支援”に来られたのではないか,とな。事後処理だけしに来るということ自体が怪しかった。あの時はずっと部下に見張らせておいたがな・・・。)

華は約500年前に清王全しんわんぜんを国王に据えてからというもの、妖界の各国に旅人と称した諜報員を何人も送り込み、その国の技や術、つまり文字通りの“技術”を盗んでは自国の文化レベル・軍事レベルを上昇させていたのである。妖界の主要国家の殆どが華に難色を示すのも無理からぬことであった。日本もその1つであることは言うまでもない。そしてその日本の中枢を担う護国院の、それも隠密隊隊長ともなれば、並々ならぬ警戒心を持つことは至極当然の事であった。即ち、陰美に課せられた任務はただ七災神・雷獣を討伐すればいいというものではなかったのである。

(“最高の目標”は『李快天と共闘し、華に日本独自の技術を見せずに七災神を討伐すること』。だから私はこの戦いにおいて陰陽術を使用しなかった。だがこの目標は李快天殿の死で叶わなくなった。流石に七災神はそこまで甘くはなかった。ならば“最高から2番目の目標”に変更する。『私1人で、華に日本独自の技術を見せずに七災神を討伐すること』だ。その為の“準備”はもう仕上がっている。皮肉なことに、この七災神が雷獣であり、この場所に来てくれたことが幸いした。

この地安門広場は観光名所だという名目で広場中に“監視晶石かんししょうせき”(流界で言う監視カメラ)が無数に設置されていた。独特の波動を出しているが故、私にはどこにあるか明白であったが・・・。それを雷獣の派手な雷と攻撃が悉く破壊してくれたのだ。雷獣の手の届かなかった箇所は私が吹き飛ばされたついでに破壊しておいた。店内、とかな。それともう1つ、広場周辺にあった複数の気配。恐らく華の軍隊が送り込んだのであろう偵察・隠密部隊だろうが、これも雷獣の無差別に降っていた雷にでも打たれたのだろう、さっきから1つの気配も感じなくなった。そしてこの地安門広場。観光名所であるが故に周囲を高い建造物で囲まれ、広場自体は完全に外界から見ることが出来なくなっている。…李快天殿の目ももうない。)

陰美は立ち上がり、空を見上げる。

(飛竜もいない。今なら、“あれ”をやれる。)

陰美は思う。

(嗚呼、今から私がやることは最初からそれをやれば良かったのではないか,と言われる類のことだろう。それに、世界の命運がかかっているというのに国家間の事情を考えている場合か,と糾弾する者もいるだろう。だが、そうなのだ。国に属する者は、国がその後も残った場合を思慮して動かねばならぬのだ。ミネルヴァ殿も、きっと同じ状況ならば同じことをするだろう。・・・そう思うと、ここの七災神に私を割り当てたのは、美鳥殿の配慮だったのかも知れんな。)

陰美は黒い妖気をその身に纏い始める。その異様な気配に気付いた雷獣は素早く陰美の方に顔を向ける。しかし、そこには既に陰美はいない。

(流界のある作家が言ったそうだ。「光は自分が何よりも速いと思っているが、それは違う。光がどんなに速く進んでも、その向かう先にはいつも暗闇が既に到着して待ち構えているのだ。」とか。ふふ、何故人間がそんな真理に到達するのか・・・まったく、人間とは不思議なものだ。)

“隠密隊秘匿奥義・影疾駆かげばしり

陰美は雷獣の頭上30㎝の距離にいた。そして、雷獣が気付くより速く。

“隠密隊秘匿奥義・殺取あやとり

黒い妖気を纏った陰美の指が、雷獣の首を“掻き落とした”。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ