第198話:七災神・雷獣
陰美が呟く。
「すまない、李快天殿。」
この10分前―。
妖界・華・地安門広場
暗雲の中を雷が轟き、周囲の至る所にその閃光が落ち、日頃は観光地として賑わう広場は見る影もない戦場と化していた。雷獣による度重なる落雷とこれを討伐せんとする陰美と李快天将軍の攻撃によって広場のあらゆる所が抉り返っていた。しかし、陰美たちは変わらず劣勢のままであった。
「うおお!!」
李快天が怒号と共に“快天剣”を振るう。
“快天剣・快速地獄”
半妖態の李快天が出せる最高速度にて雷獣へ接近し、周囲を駆け回りつつ斬撃を浴びせていく。が、この斬撃を雷獣は全て爪や牙で受け止める或いは受け流して行く。
「チィ・・・!」
“快天剣・・・”
李快天が跳び上がり、重い一撃を出さんとしたその瞬間、雷獣は彼の背後を取っていた。
「グルルル♪」
雷獣は他の七災神のように複雑な出自を辿ってはいない。雷獣という生き物は、生まれた時からすぐにひとり立ちさせられる生態であり、この雷獣も例外だはなくそうであった。そのため雷獣は真の強者しか成体にはならず、個体数も少ないのである。ただ、他の雷獣があまり好戦的でなく人目を忍ぶのに対し、この雷獣は生まれつき“暴れたい衝動”を内包していた。それが生き残るには良い方向に働き、ずっとその衝動に身を任せて生きていたのである。そうして華の山で暴れ回っていたところを、疾風に“七災神”へ勧誘され、“七災神”となった、それだけの事である。勧誘された際、雷獣は何の抵抗も反発もせずに勧誘を受け入れた。天性の暴れん坊が大人しく言う事を聞いたわけだが、その理由も至極シンプルなもので、“自分よりも強い奴だから”であった。野生の勘、とでもいうものであろうか、雷獣は疾風に出会った瞬間に勝てない,と感じたのであった。
この通り、雷獣は単純な流れで“七災神”となった妖である。当時の疾風からの指示も「今よりも派手に激しく暴れ回れ。」であり、恐らく最も純粋に本能に従って破壊行動を取っている七災神であると言えよう。
“隠密剣・凶刃”
李快天の背後を取った雷獣の背後を陰美が取っていた。黒い妖気を纏わせたナイフで雷獣の延髄を斬り裂く。が、ナイフは稲妻を斬る。その陰美の更に背後に雷獣は移動していた。光速の横回転による尻尾での薙ぎ払い攻撃が陰美を襲い、20m先にある壁に叩きつけられた。李快天がその攻撃の隙を突こうとするも、こちらは光速の右前足突きにて吹き飛ばされ、凄まじい勢いで地面を砕きながら転がり、30m先でようやく止まったが、李快天は地面に突っ伏したままである。
「フォオオオオオ!!」
雷獣のけたたましい鳴き声が広場にこだまする。すると、不定期に落ちていた雷がピタリと止んだ。壁に打ち付けられ、動けない陰美に悪寒が走る。
「これは・・・。」
陰美の最悪の予測は、的中してしまう。止んだ落雷のエネルギーが全て凝縮したような雷霆が、倒れ込む李快天の上空の暗雲の中に見て取れた。
「ファアアアアアオオ!!」
次の瞬間、地安門広場は真っ白な閃光に支配された。
華・地安門広場より1㎞ほど離れた古い城
「ほお~やるのう、雷獣とやら。我が軍の戦力に出来んかのう?」
白い髭を蓄えた老爺が笑いながら言う。
「でしたら、あれほど気性の荒くない雷獣を探して参りましょう。」
「おお、そうかそうか。あんな荒っぽいのは面倒じゃからのう。ほっほっほ。」
この老爺こそが華の現国王・清王全である。華史上最高の軍を築き上げ、他国家を食い物にする軍略家でもある。
「ほっほっほ。やはりいらんかの。我が軍は、斯様な獣など一蹴できる戦力が幾つもあろうものな。なあ、将軍よ。」
「その通りでございます、閣下。」




