第197話:火鳥風月
流界・南極
「あんだよ、斬られたっぽいぞ!」
「だから手強いと言ったろう・・・?」
「でも向こうの斬撃も消えたな!うん!」
「・・・。」
フウはイフリートが苦手だった。というより面倒くさかった。彼女が生み出す炎と同じくらいのテンションの高さが、静寂や爽やかさを好むフウとは全く相容れなかったのである。だが、その性格とは反比例するように、2人の能力の相性は実に良いものである。
「はぁ・・・イフリート・・・そなたの炎・・・。」
「“プロミネンスブラスト”な。」
「・・・“それ”は、奴らの竜巻の影響下に入ると同時に・・・減衰していたぞ。」
「嘘!?マジで!?」
「・・・自分で出していて気付かなかったのか?・・・だが、向こうの斬撃もそなたの火柱・・・。」
「“イグニ・テンプルム”な。」
「・・・“それ”の影響下に入るなり減衰し、消滅した。」
「ん~、じゃあ五分ってコトか?ケリ着かねぇじゃんか~。」
頭の後ろで手を組んで、面倒くさそうにするイフリート。
「否・・・そなたと“奴ら”で五分なのだ・・・“我ら”であれば勝機がある。」
「!おー、そーだな・・・へへっ。」
「?・・・何故笑う?」
「いや、シルフから“力を合わせよう”なんて言われると思ってなかったからよ。やっぱ変わったな、お前。いい意味で。」
「・・・“力を合わせよう”などと言っていない。」
「でも合わせんだろ?」
「・・・ああ。そなたは攻撃を放てばよい。あとは我がそれを“加工”する。」
「イイぜ。んじゃぁ・・・!」
イフリートは炎を纏わせた右手を大きく振りかぶる。
“プロミネンスブラスト”
巨大な炎が再び神斬と神風へ向けて放たれた。神斬は再びこれを斬り裂かんと刀を構える。
“炎切【寒冷斬空】”
氷点下の斬撃が向かってくる炎を断ち切らんとする・・・が。
ドバァァン!!
斬撃は掻き消され、神斬と神風は“プロミネンスブラスト”に呑み込まれた。
「!!?」
2体の七災神は何が起きたか理解できていない。自分たちの絶対有利の氷点下の領域において、炎熱が勝る理由が分からなかった。
“風圧加護”
言わずもがな、フウの仕業であった。イフリートが放った“プロミネンスブラスト”に、即座に“風圧加護”・・・即ち風の鎧のようなものを纏わせていたのである。同じ“霊力”から生じた能力は互いを補填し、尚且つ風は炎を強化させる効果もあった。竜巻の影響下に至っても火炎は減衰することはなく、むしろただの“プロミネンスブラスト”よりも威力を増して神斬と神風のもとへと到達し、断ち切られることもなかったのである。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ヒーーヒヒヒヒン!!」
神斬と神風が同時に雄叫びを上げた。彼らの周囲に、竜巻が集まり始める。
「アレ・・・か。」
「なに?」
「いや、今なら心配は無用か・・・。」
「だからなに?」
「よい、そなたは構わず最大級の炎を用意しろ。」
「!へっ・・・いいぜいいぜぇ!そーいうの!人間と関わり過ぎて弱っちくなったかと思ったが、粋になったじゃんかァ!!」
イフリートが自身に纏う炎を極限まで高温にし、極大まで大きくし、天へと立ち昇らせる。それを見た神斬と神風は上空へと跳び上がり、神斬は刀を天に掲げる。すると、全ての竜巻が集まり、1つの巨大な竜巻へと変貌する。
“霊切【天竜刀剣】”
巨大な竜巻の中心に神斬と神風は身を置き、竜巻を更に刀剣へと変容させた。
「面白ェ・・・!こっちも行くぜ!!」
“ファイヤーバード”
イフリートは炎で巨大な火の鳥を形成し、自身も炎となってこれに身を宿し、神斬と神風に向かって一直線に飛んでいく。
「バカ正直に・・・まぁいいでしょう・・・。」
フウは何故か少し微笑んでいた。以前のフウならばただただ呆れていたであろうイフリートの行動に。
「彼らの所為・・・か?」
そう呟き、フウは“ファイヤーバード”に加護を与える。神斬と神風も、向かってくる“ファイヤーバード”に“霊切【天竜刀剣】”の切っ先を向け、真っ直ぐに突撃した。これは、武士の魂をルーツに持つ、彼らの“礼儀”だったのかも知れない。
ぶつかった両者は激しい大爆発を起こし、南極全土の氷を一度は全て溶解させた。この大爆発は南極における謎の事象として、今でもアメリカCIAの機密ファイルに記録されているとか・・・。だが、調査に来た人間たちは数名のテレビクルーの遺体を回収しただけで、他には何の痕跡も見つけられなかったという。
南極の溶解した南極の氷は、ウンディーネが海水を操ることで3日ほどで元通りにしたことは、人間には到底知り得ない事実である。
「悪りぃな・・・ウンディーネ。」
「・・・大精霊様の命よ。アナタの為じゃないわ。・・・シルフは?」
「ああ、アイツはもう行ったよ。こっからが本番だ,とか言ってたな。」
「フン。・・・変わったわね、あの子。で、アナタはいつまでそこに寝転がってる気?イフリート。水が凍る妨げでしかないんだけど。」
「悪い、もーちょい。ちょっとチカラ使いすぎたわー。」
「まったく・・・。」
七災神・神斬、神風・・・撃破。




