第195話:イフリート
スカーレット大将がホワイトランドに到着する数分前。
流界・南極
無数に発生した極寒の竜巻が天へと立ち昇る中、愛馬・神風に跨った神斬が倒れ込むフウにゆっくりと近付く。フウの意識は朦朧としており、立ち上がれる状態ではない。
「ヒーヒヒヒヒッ!!」
神風が嘶きと共に前足を上げ、フウの頭めがけて蹄を振り下ろす。バァァン!!,という凄まじい爆音が、南極にこだました。
「おいおいおい・・・人間と馴れ合いすぎて脆弱になったか?シルフ。」
その声にフウの薄れていた意識が鮮明さを取り戻す。徐々に視界が開け、自分の“目の前に立つ燃え盛る炎”に目を向ける。その炎は神風の蹄を受け止めていた。
「・・・誰が助けろなどと・・・言った?・・・イフリート。」
「大精霊様だよっ。」
イフリートと呼ばれたその炎は蹄を弾き、神風は後ろへ跳び退く。燃え盛っていた炎は次第に火力を鎮め、ツインテールの少女の姿へと変化した。
「大精霊様がシルフがピンチだから手を貸せって。ドライアドはあの森から出らんないし、ウインディーネはこんな極寒じゃ役に立たねーからな。仕方なくアタシさ。じゃなきゃ誰がアンタなんか助けるかっつーの。」
「・・・。」
フウはゆっくりと立ち上がる。
「・・・まだやれんのかよ?」
「やらなければ・・・ならないのだ・・・。」
「・・・・・なんか変わったな、お前。前までは全てどうでもいいって目ぇしてた気がしたけど。今はなんか・・・。」
「無駄口はそこまでだ。奴は手強いぞ。」
神風が嘶き、再び竜巻が勢力を強め始めていた。
「ハッ!この世の自然を司る精霊が2柱相手に調子乗れると思うなよッ!?特にこの・・・イフリート様相手になァ!!」
“イグニ・テンプルム”
イフリートが両手を広げると、自身の身体が激しく燃え上がり、同時に炎の柱が何本も出現した。
「!!?」
神斬と神風は封印を解かれてから初めて動揺していた。理由は単純、そのイフリートの行為が自分たちに対してあまりに効果的な手段だったからである。
「・・・無駄な火力を・・・と、言いたいところだが、今回はそなたの能力に感謝だ。」
「だろ!?やっぱ戦いには炎だぜ!」
「・・・・・。」
イフリート自身は気付いていなかったが、イフリートの使った“イグニ・テンプルム”は炎の柱を複数本出現させることで周囲の気温を上昇させる効果がある。イフリートは戦闘時、必ずこの技を使って周囲を灼熱にし、自分に有利な戦場を作り出していた。そして、それはこの極寒の南極を主戦場としている神斬・神風にとっては最も厄介な行為だと言えた。何故なら、彼らが巻き起こす竜巻は周囲の気温を奪い去り、周囲をより極寒へと変えるものであるが、それは飽くまでも周囲が“気温”と呼べる温度まで。つまり、“イグニ・テンプルム”が生み出すような灼熱までは吸収できないのである。
現在、戦場は神斬・神風の立つ極寒の地とフウ・イフリートの立つ灼熱の地に完全に分断されていた。
「奴らはあそこから・・・動けまいな。」
「あん?そうなのか?んじゃあ、こっちから行こーぜ!」
“プロミネンスブラスト”
超高温の真っ白で巨大な熱線が神斬・神風に高速で飛んでいく。
“炎切【寒冷斬空】”
神斬は剣を振り下ろすと、極寒の斬撃を発生させ“プロミネンスブラスト”を相殺した。
「あんだよ!斬られたっぽいぞ!」
「だから手強いと言ったろう・・・?」




