第192話:アークエンジェルアローサルVSダークエンジェルアローサル
マスティマの剣がミネルヴァを襲い続けていた。ミネルヴァはそれを受け流しつつ反撃の機会を窺っている。
「悪クナイ!悪クナイィ!!」
瞬間的に現れて攻撃しては消え、また現れては消え,を繰り返すマスティマに、ミネルヴァは“パルテノンレイ”や“アヴァロンズシャイン”のような大規模な技を放ち、距離を取りたいと考えていたが、マスティマの“アークエンジェルアローサル”でも見切れぬほどの俊敏さとそれに見合わぬ一撃の重さにそんな隙はなかった。ならば,とミネルヴァはマスティマの攻撃の直後に高速で回転蹴りを出そうと試みた。しかし、一回転した瞬間に脚を蹴り出すのを止めた。直観的に、その蹴り出した脚を刎ね飛ばされると思ったからである。
(このままでは・・・。)
和神と美鳥の元へ急がなければという思いから、押し込まれ続けるミネルヴァに焦りの色が見え始める。また、マスティマの攻撃を受け流す度に周囲には衝撃が起こっており、これによって辺りは再びホワイトアウト状態にならんとしているのも焦りの一端を担っていた。
ミネルヴァは再びホワイトアウトになるのは避けたかった為、ここで動き出す。
“モーゼズスパイラル”
マスティマの攻撃を弾きつつ、周囲に舞い上がった雪煙を斬り裂いた。だが、それはミネルヴァの隙であるとマスティマは捉えた。
“ファントムエンジェルズ”
「!!」
ミネルヴァの全方位から8人のマスティマが同時に斬りかかって来た。咄嗟に再び“モーゼズスパイラル”を放ち、その全ての剣を弾いた。すると8人中7人のマスティマは煙のように消え、1人のマスティマのみとなった。
「何です、今のは・・・?」
“ファントムエンジェルズ”
またもマスティマが8人となって同時に、今度は前方から突きを繰り出してきた。
“アイギスシールド”
ミネルヴァは前方に天力の盾を展開するも、8人のマスティマによる突きを防ぎ切ることは出来ず、無情にも“アイギスシールド”は打ち砕かれ、ミネルヴァは後方へと吹き飛ばされてしまう。翼で勢いを殺し、態勢を崩すことはなかったが、マスティマの更なる追撃が既に開始されていた。
「くっ・・・!」
最早受け切ることは不可能と悟ったミネルヴァは、無理矢理にでも攻勢に転じようと剣を構えた。が、直前まで急速接近していたマスティマが突如として姿を消し、ミネルヴァから30mほど離れた位置に移動した。これは好機,とミネルヴァは剣に天力を込め、“アヴァロンズシャイン”の態勢へと移る。ところが、その瞬間にミネルヴァの全身から力が抜ける。
「なっ・・・!?」
“アークエンジェルアローサル”が強制解除されたのである。
「どういう事です!?大天使様!」
『貴女はいい。これ以上器へ負荷をかけずに済んで良かったわ。』
「私はいい・・・とは?」
『“彼女”が、来た。』
その言葉でミネルヴァは、ハッと気配を感じる。遠くに揺らめく“彼女”の姿を視認する。視認しながら、矛盾を覚える。“揺らめく姿”というものに。ここはホワイトランド。年中雪の積もる極寒の地。代わりに空気は澄み渡り、それこそ戦いの衝撃で雪が舞ってホワイトアウトになってしまうほどに“乾燥”しているのである。だというのに、恐らくこちらへ向かって歩いて来る“彼女”の姿は、まるで陽炎のように揺らいで見えるのである。
ボッ!,という音に、ミネルヴァはしまった,と、マスティマの方へ視線を戻す。既にそこにマスティマは居らず、雪煙が舞っていたが、ミネルヴァに攻撃は来ない。
「まさか、あちらへ!?」
ミネルヴァは再度“揺らめく彼女”の方へと視線を向けた。
ズドンザザアアァ!!,とミネルヴァの右方向に凄い勢いで何かが飛んできて転がった。
「悪・・・クナイィ・・・。」
態勢を崩したマスティマが、片膝を着いてそこにいた。




