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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第5章:破滅の不死鳥 編
190/370

第190話:七災神・マスティマ

妖界・ホワイトランド

“アークエンジェルアローサル”を発現させたミネルヴァに呼応するようにミネルヴァの持つタタラ・スミス制作の剣が光を放つ。

「これが、タタラ・スミスが打った刀剣の覚醒・・・。」

「悪クナイ・・・悪クナイィィィ!!」

マスティマが絶叫しながらミネルヴァとの距離を一瞬で詰める。だが、今のミネルヴァにはその動きを捉えることが出来た。そして初めて、自身専用の刀剣を振るった。横薙ぎに振るわれたこの一撃をマスティマは胴体でまともに食らった。真っ二つ・・・とはいかなかった。マスティマの身体はそれほど堅牢であった。しかし、ミネルヴァが剣を振り抜いた瞬間、閃光が放たれ、マスティマは大きく吹き飛ばされることになった。吹き飛ばされたマスティマは空中でシュンッ!,と姿を消し、ミネルヴァの背後へと移動していたが、これもまたミネルヴァには見えていた。今度は吹き飛ばぬよう縦斬りを見舞う。マスティマはこれを両腕で受け止めたが、“アークエンジェルアローサル”の膂力と刀剣からの閃光によってそのまま地面に叩きつけられ、身動きが取れない状態になった。

「では、終わりにします。」

“エクスカリバー”

通常使えば全天力を消費してしまう“エクスカリバー”も“アークエンジェルアローサル”中ならば消耗は少ない。その上威力は段違いである。決着は着いたかに思われた・・・。


“ダークエンジェルアローサル”


その瞬間、ミネルヴァの剣は弾かれ、周囲には黒い羽根が舞ったかのように見えた。身体が浮かぶように立ち上がったマスティマの背には4枚の翼が生えている・・・ように見えた。そんなはずはないのである。彼女は既に翼を捥がれた堕天使なのである。翼などあろうはずもない。しかしその瞬間確かにミネルヴァはそれを見たように感じた。

「今のは・・・?」

『“未練”“憎悪”“怨念”・・・それら負の感情によって“見せられた”幻想。謂わば堕天使特有の“力域”であり、堕天使の“エンジェルアローサル”の発現。油断しないで、彼女が来るまでもう少しよ。』

「彼女・・・?」

「私ハ悪クナイ。救ッタノダカラ。」

大天使の言葉はともかく、明らかに雰囲気の変わった目の前のマスティマに集中することにしたミネルヴァ。マスティマは徐に手を前に出すと、その手中に黒いオーラで刀身がボロボロの剣を精製した。

「悪クナイ・・・。」

笑ったように見えた。ミネルヴァの背筋に悪寒が走る。目の前に“現れた”切っ先を考えるより早く身体の反応によって剣で受け流した。右こめかみを狙って“現れた”ボロボロの刀身を再び受け流す。

「これは・・・。」

(現れているのではない・・・!今の、“アークエンジェルアローサル”の私でも捉えられない速度によるマスティマの移動攻撃・・・!)

ミネルヴァは思い出していた。マスティマが“ダークエンジェルアローサル”を発動した瞬間のことを。あの時、マスティマの背に見た翼の数を。

(マスティマは・・・大天使だった!?堕天使となってもその力が・・・!?)

マスティマの超高速による剣をギリギリで回避し続けながら、それが大天使の力でないことに気付く。

(これは・・・この力はまさか・・・“怨念”、“憎悪”では・・・!?大天使様が仰っていた負の感情そのものを天力に上乗せしている・・・!?)

“アークエンジェルアローサル”で、光を纏う刀剣を持ってしてミネルヴァはマスティマのボロボロの刀剣による一撃一撃に凄まじい重さを感じていた。

(だとしたら・・・一体どれほどの“恨み”をこの方は・・・?)

戦闘開始時からミネルヴァは彼女に対する“敬意”を持ち、捨てられずにいた。本来天界を追放された堕天使に容赦などかけるミネルヴァではない。それは出会った頃のサラに対する姿勢を見ても明らかである。しかし、マスティマにはそう出来ない理由があった。ミネルヴァ自身が気付かぬ理由が。


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