第188話:焔龍の咆哮
ヴォルヴァイアがその身に纏っていた太陽の如き灼熱、いわゆる力域が、今は周囲500m程までに拡大していた。とはいえ、その範囲内にいるのはサラだけであった。しかし、気がかりなのは新たに纏った黒いオーラである。
「ギシャアアアアオオオウ!!」
ヴォルヴァイアが咆哮した。すると、力域範囲内外問わず、オリンポス火山地帯全体に地鳴りが起こり始めた。否、地鳴りというよりもそれはまるで火山地帯が脈打っているように見えた。この地鳴りはオリンポス火山地帯のみならず、同刻にメリディエス帝国跡に駐在しているサンクティタス王国兵たちも観測していた。彼らはのちに、周囲の山々が呼吸しているように見えた,と報告をあげた。
「どうやらいよいよアレを見せてくれるみたいね。んじゃ、アタシも・・・。」
そう言うとサラはすぅ・・・,と息を吸う。そして、ヴァルヴァイアの灼熱の力域と同等かそれ以上あると思われる規模の力域を展開した。
「こっからガチね♪」
ヴォルヴァイアの力域が“灼熱”ならば、サラの力域が持つ特性は“冷涼”。それは何が起きても動じず涼しい顔をしているサラらしい特性であった。かつ、灼熱を緩和するのにうってつけの性質でもあった。
「ギシャアアアアオオオオオオウ!!!」
ヴァルヴァイアが再び咆哮する。それに伴い、サラが自身の軍を呼んだ理由が生じる。地鳴りを起こしていた火山地帯の岩石・鉱石・魔石などがバリバリと音を立てて山々や大地から剥がれて宙へと浮いていく。これもまたメリディエス火山地帯でも起きていた。そして、宙に浮いた岩々や魔石が急速に何かを形作るように集合していく。1か所にではなく幾つもの場所で同じ現象が生じ、やがてそれが何かが明らかになった。
「ゴーレム・・・!?」
メリディエス帝国跡に駐在していた兵の1人が口にした。そう、岩々が集合して形作っていたものは“人型”の全長20m~50m程の様々な大きさの岩人形・ゴーレムであった。1体1体多少形は違えど歪な人型をしている。
「ギッシャアアアア!!!」
ゴーレムたちはヴォルヴァイアの次の咆哮により、その眼に赤い光を宿らせて魂を持ったように動き始めた。メリディエス帝国跡近くに出現したゴーレムは近くの街の破壊を、オリンポス火山地帯に出現したゴーレムはサラへ向けての攻撃を開始した。
「よーし!我が軍よ、今よ!!」
「オオオオオオオオオオオ!!」
サラの号令と共にガイコツ(スケルトン)やミノタウロス、サイクロプスなどで編成された彼女の軍が怨嗟の叫びにも近いような大声を上げ、ゴーレムたちへと弓を引き、銃身を構え、砲身を向け、一斉に放ち始めた。
魔力を纏った矢・銃弾・砲弾が飛んで行き、巨大なゴーレムたちに次々と命中し、20m級のゴーレムはこれによって砕け散って行ったが、30mを超えるゴーレムはこれに耐え、約半数のゴーレムは狙いをサラから軍の方へと変えた。
「よしよし、優秀な部下である。」
うんうん,と頷くサラに、50m級のゴーレムが残っていた20m級のゴーレムを鷲掴みにしてブン投げてきた。
「おぉっ!そんな戦法?」
飛んで来る20m級のゴーレムは身を丸めて砲弾のようになっている。
“トリプルセブン・ホーマー”
サラ再びその手に魔力でメイスを作り出し、飛んできたゴーレムを打ち返した。が、ゴーレムの耐久力は“デモンズスタイル”のサラの一撃には耐え切れず、砕け散ってしまった。
「あり?思ったようには行かなかったかぁ。こーいうノリだと思ったんだけど・・・。」
何故か少し落ち込むサラ。一方で、時を同じくして異常が起きている場所があった。




