第186話:陽子の恐怖
メリディエス帝国・中将メタルとの交戦時に幼少期以来始めて半妖態となった陽子は、2つの恐怖に囚われた。
1つ目は既に解決済みの和神に自身の力を恐れられてしまい距離を置かれてしまうのではないか,ということ。
そして2つ目が、半妖態となって解放された膨大すぎる自身の力そのもの。前者は後者によって生じたと言っていいだろう。つまり後者こそが陽子の中に生じた恐怖の本質であった。
美鳥が言っていた通り、陽子の有する妖力は術を扱うことに適している。メタル中将との戦闘において陽子は大方を素手による攻撃で終え、メタル中将が自爆しようとした時に周囲を守るために“陽撃【凝縮式】”を使っただけである。また、先刻の疾風との戦闘において、陽子は始めて半妖態で術を使ったが、このときは恐怖に加えて近くに狗美たちがいたこともあり、半妖態として本領を抑えていた。狗美たちがいたことを言い訳にした,とも言えるかも知れない。それほど、陽子は半妖態になった自身の力を恐れていたのである。それほど、陽子が半妖態になった際の力は大きかったのである。陽子自身が制御出来ないと思うほどに。
それ故、此度の“七災神”海神との戦闘でも陽子は半妖態となりながらもその真価を発揮せずに戦っていた。黒水諸島の妖たちを言い訳にして・・・。しかし、海神はそれで勝てる相手ではなかった。
黒水諸島
自分が戦えなくなっても懸命に海神と戦おうとする黒水諸島の戦士たちを見て、陽子は意を決した。それまでの気遣いの皮を被った言い訳は彼らへの愚弄でしかないとし、彼らを守るために彼らへの被害を省みない覚悟を決めた。そして、黒水諸島上空から発する。
「黒水諸島の皆さん!守りを固めて下さい!」
「!?」
黒水諸島の戦士たちは動揺した。戦士たちを代表して指揮官ウォーズが返答する。
「どういうことだ!?守りを固めて海神の攻撃が防げるとは思えねぇんだが!?」
「海神から守るためではなく、わたしの術から守るために,です。」
「!?」
黒水諸島の戦士たちはますます動揺した。
「わたしこれから海神に対して術を行使します。ですが、これはもしかするとあなた方にまで被害を出してしまう恐れがあります。なので、守りを固めて欲しいのです。」
そう説明する陽子の放つ妖力が強力になっているのを感じ、黒水諸島の戦士たちは陽子の説明を否応なく理解した。
「ヴオオオオオ!!」
唸る海神の100mほど前の空中に陽子は立つ。
「あなたに感謝しなくてはいけないかも知れません。それほどまでにわたしは愚かでした。和神さんたちのもとへ急がねばならない身でありながら自身の恐怖を“優先”させていた・・・。貴方がこれほどの脅威でなければ、わたしはこの愚行を今後も続けていたでしょうから。」
「ヴオオオオオオオ!!」
「と言っても理解する器量は持ちませんよね・・・。では、終わらせます。」
半妖態の陽子が持つ神秘的なオーラが更に神々しく煌めき、陽子は天を仰ぎ、その瞳が一瞬白く輝く。すると海神が荒らした天空から、光が射し始める。
「ヴオオオオオォォォォ!!」
海神は再び角を不気味に青く輝かせるが、空は言うことを聞かない。
「無駄です・・・もはや天はわたしの術中。」
“天狐ノ霹靂”
空から神秘的に射していた光は雲を消し去り、一瞬にして海神を飲み込んだ。
「ヴォッ。」
海神はこれも耐えられると思っていた。無傷でやり過ごせるだろうと。今までその身に傷を付けられたことがなかったから。だからこその油断であった。受けてはいけない攻撃が、解らなかったのである。海神は解らぬまま、自身の無敵を疑わぬままに消滅した。
この天から落ちた光は直径500m以上ある光の柱のようで、これを見ていた黒水諸島の戦士たちは後に陽子を模した女神像を島に作ったとか。即ち、黒水諸島の妖たちは皆無事であった。ただ、陽子の落とした天雷で、周囲にいた魚たちは感電してしまったが、この魚たちは黒水諸島の妖たちの祝宴での酒の肴になったという。
“七災神”海神・・・撃破




