第183話:風と雷
流界・南極
胴を真っ二つに斬られたフウは、瞬時に体を風に変えることで霊力の流出を抑制することに成功した。そしてそのまま風の姿で反撃へと移る。刀を鞘に収める途中の神斬と神風の周囲を駆け、“風武百連陣”を展開していく。
“風武百連陣【螺旋封殺】”
神斬と神風の周囲に螺旋状に設置された風の武器の数々が一斉に襲い掛かる。それと同時に、神斬はしまいかけた刀を再び抜刀し、迫り来る風の武器を目にも止まらぬ速さで刀を振るって打ち砕いていく。
“風切【微塵旋風】”
その刀捌きはやがて旋風を伴い、刀が行き届かぬ場所から飛来する攻撃をも打ち砕いて行った。だが、この間にもフウは次の一手を打っていた。神斬の頭上に巨大な風の太刀を形成。“風武百連陣”は飽くまでも目眩ましに過ぎず、本命はこの太刀。
“風薙の剣”
しかしここで、神風が動く。激しく身を逸らし、大きく嘶く。
「ヒヒヒヒィィィン!!」
すると、周囲に吹雪が逆巻き始める。
(まさか、あの馬・・・!)
神風は嘶きによって吹雪を呼び、南極中に起こした竜巻を自分たちの居場所へと招集したのである。
(竜巻が集まる前に・・・落とす!)
“風薙の剣”を神斬と神風の上空から落下させる。
“霊切【竜刀剣】”
神斬が刀を掲げると、招集した竜巻がそのまま刀剣へと姿を変え、“風薙の剣”を打ち砕き、さらには風となっているフウの存在をも捉え、斬り裂いた。フウは人間態へと姿を戻し、その場に転がり倒れた。
「すまぬ・・・和神・・・。」
華・地安門広場
陰美は建物の3階にある、食器が散乱し机や椅子が散らかった無人の飲食店の中で倒れていた。雷をその身に纏い、全力を解放した雷獣の攻撃によって吹き飛ばされ、窓をぶち破ったのである。
「クッ・・・。半妖態で妖力を纏っていても、この威力とは・・・。」
既に陰美は半妖態で雷獣の迎撃に当たっていた。共闘する李快天もまた半妖態となっていた。店舗の外からは戦闘音が聞こえる。
李快天は白虎の系譜を辿る種族だと陰美は聞いていた。白虎は、かつて華を開いたとされる伝説の四妖の一角。その血を引く者の戦闘力は計り知れないものがあるという噂であった。その上、李快天は快天剣にて将軍にまで上り詰めた男。陰美は、もしかすると自分がいることで反って戦闘の邪魔をしていたのではないか,とさえ思っていた。もしかすると、現在は李快天が雷獣を圧倒しているのではないか,と。だが、現実は違った。半妖態となり、腕や脚が白い獣毛に覆われた状態の李快天は、雷獣の攻撃をかろうじて見切り、避けるのが精一杯の状況であった。
全力を解放した雷獣の攻撃速度・移動速度は最早“光速”の域に達していたのである。言うなれば、雷そのものと戦っているに等しかった。これをかろうじて凌げているだけでも、本来ならば驚異の能力であるのだが、凌いでいるだけでは勝てないのは紛れもない事実であった。
(このままでは埒が明かない・・・!打って出るしか!)
そう決断した李快天は防御・回避を度外視し、攻勢に出た。
“快天剣・鋸”
高速回転で雷獣の背を斬り裂かんとした。しかし、それは今の雷獣にとっては隙でしかなかった。光速にて躱され、胴を前足で“一掻き”。それだけで李快天は吹き飛び、近くにあった店へと突っ込んだ。それが“光速”という速さ、強さであった。触れることさえ敵わず、許されない力であった。だが、これで終わる李快天ではなかった。店から飛び出し、戦闘の姿勢を見せる。これを李快天が突っ込んだ店とは反対側に位置する建物の3階飲食店から観ていた陰美は呟く。
「・・・姉様、美鳥殿、和神・・・すまないが、少し遅れそうだ。」




