第177話:待ち人
大洋・南部上空
美鳥は不死鳥態となり、背に和神を乗せて富士見島へ向かっていた。思念を飛ばして和神の脳に直接話しかけることで会話ができる不死鳥態の美鳥は、道中“七災神”の所へ行っている狗美たちのことなどを和神と話していたが、不意にこんなことを話し始めた。
「私は、貴方に謝らないといけない。」
突然の謝罪に和神は聞き返す。
「?・・・転譲の儀のことですか?」
「いえ、もっと根本的なこと。」
「根本的・・・。」
「・・・私は、初めから貴方を“ここ”まで巻き込むつもりでいたということ。」
「初めから・・・というと・・・。」
「貴方が中学生の頃。私が初めて貴方を見たのは。」
「!」
「私は、イックスの封印が解かれることを予見してた。だから、それに備えて“受け容れし者”を探し続けていた。私の使者にも何代にも渡って西洋妖界や魔界とかも探させて。見つけたら転譲の儀でイックスの復活まで生きていてもらおうと思っていたの。でも、結果として“受け容れし者”は人間の中にしか見つけることは出来なかった。妖や魔物には“受け容れし者”は一切存在しなかった。」
「・・・でも、人間の中には何人か“受け容れし者”がいたんですか?」
「ええ。でも“受け容れし者”をせっかく見つけても、人格が酷かった。“受け容れし者”の力に中途半端に目覚めていた最初に見つけた“受け容れし者”は、相手の心の隙間を感じ取ることで女性を何人も誑し込んで貢がせていた。2番目に見つけた“受け容れし者”はその力に支配されて、あらゆる他人の心の闇を背負い込んで廃人になっていた。
そんな人間ばっかりの中、イックスの復活が近付いて焦っている私の前に、貴方は現れてくれたの。普通より背が大きいくらいで、まだ“受け容れし者”の力に気付いてない中学生!この子しかいない!って直観した。」
「・・・嬉しいです。」
「・・・でも、そこから私は貴方を利用することしか考えていなかった・・・。まずは大人になるまで様子を見て、どんな人間なのか観察してた。」
「え、ずっと見てたんですか・・・?」
「そうよ。で、どうやらちょっとSっぽくて冷たい感じだけど、それは人間社会で生きるための”鎧”で本当は優しい子だって結論に至った。」
「何か・・・恥ずかしいですね・・・。」
「で、そこからはどうにか貴方に“受け容れし者”として目覚めて、強くなってもらわないといけなかったから、私はまず貴方を人間たちと距離を置かせるようにした。専門学校卒業と同時に貴方が1人暮らしがしたくなるように貴方自身や周りの人間に思念を送って、貴方が物件を意識し始めた頃に不動産屋を設置して・・・。」
「設置って・・・え?」
「貴方が“とこしえ荘”を見つけたあの不動産屋は私の使者が経営するあの日限りのものよ。それで貴方が“とこしえ荘”を選ぶように誘導したの。」
「えー。あ、だから後であの辺通っても不動産屋見つからなかったのかぁ。」
「そういうこと。それで貴方は“とこしえ荘”にやって来た。それからの私は“とこしえ荘”に結界を張っておくだけにしておいた。まずは貴方の人格を見極めないといけなかったから。大きな力を手にしても溺れないか,善人か,賢いか,とか。さっき言ったように“受け容れし者”の力は悪用も出来ればその力に取り込まれることもある危険な側面も多いから。まあ、その点は問題なさそうな雰囲気だった。それが分かった時点で本当は私が直接事情を話して鍛えていくつもりだったんだけど・・・。」
「狗美がやって来た・・・?」
「そう。誤算だった。けど、嬉しい誤算。“妖”で“女性”で“美人”で“傷ついて”いて“困っていた”。和神くんの度量を試すのにピッタリだって思った。この娘を通じて、自然と貴方が“受け容れし者”としての力に気付き、運命を切り開いていくことが出来れば、きっとイックスが復活しても何とかなるってね。それからその先は、ただ見守りつつ、イックスの復活の時期に気を配ってた。
貴方がミネルヴァちゃんとかフウちゃんとかサラちゃんを連れてきたときはホント・・・。」
美鳥が言葉を詰まらせる。そして涙混じりの声音で言う。
「和神くん、生まれて来てくれてありがとうって・・・思ったんだ・・・。」
前話に登場した、魔界オリエンス王国東の奇岩地帯の名称を“ニフルヘイム”から“ヘルヘイム”に変更しました。ご了承下さい。




