表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第5章:破滅の不死鳥 編
174/370

第174話:ホワイトランドの伝承

西洋妖界・サンクティタス王国・鍛冶屋“ホワイトスミス”


鍛冶屋“ホワイトスミス”はサンクティタス王国一の鍛冶屋である。サンクティタス王国軍人は、将校に昇格するとこの鍛冶屋にて自身専用の武具を制作してもらうことが“しきたり”となっている。

ミネルヴァは、先のメリディエス帝国侵攻の功績を評価され、既に准将から少将へと昇格していた。本来ならば准将に昇格した段階で専用の武具が用意されて然るべきであったのだが、その後に発生したメリディエス帝国侵攻等の影響と「納得が行くまで絶対に世に出さない」というポリシーを持つホワイトスミス唯一の鍛冶職人である名工タタラ・スミスの気質も重なって、未だ授与されていなかったのである。

「申し訳ありません、ミネルヴァ様。本来ならば貴族院にて式典を催すところを態々《わざわざ》お越し頂いて・・・。しかも父は出迎えも出来ず・・・!父は仕事終わりに必ず12時間は眠ってしまうものでして・・・!」

タタラ・スミスの愛娘アンジェラが豪奢かつ気品あふれる剣を慎重にミネルヴァに手渡した。

「いえ、こちらこそ急に押しかけてしまって申し訳ないです。事態が事態ですので、ご理解ください。」

ミネルヴァはその剣を腰に差しつつ突然の訪問を詫びた。

「いいえ、そんな・・・!“ホワイトランド”に出でた怪物のことですよね・・・私も幼少の頃は“ホワイトランドの怪物の物語”を母によく聞かされたものです。」

「ええ、わたくしもです。・・・それでは、急ぎます故これにて失礼致します。お父上には、この身に余る見事な名刀、感謝致します,とお伝えください。」

「は、はい・・・!必ずっ・・・!」


サンクティタス王国領北西に浮かぶ島・ホワイトランド


サンクティタス王国全体の3分の1の割合を占める大きな島・ホワイトランド。それだけ広大な土地に、あるのは大きな港町が1つだけ。あとは全て雪原が広がっている。何故この島に住民が住まないのか。その理由は1つは年中雪が降り、湖が凍結しているという極寒の環境が挙げられるが最も大きな理由は、サンクティタス王国民のみならず、西洋妖界に住む者であれば子供でも知っている古くよりの伝承“ホワイトランドの怪物”の逸話である。


大昔に天界で大罪を犯した天使は天界を追放され、極寒の大地に堕とされた。罰として翼を奪われ堕天使となった“彼女”は妖として地を這って生きるはずだったが、“彼女”は天界への恨みからただの妖ではなく“怪物”と成り果て、行き場のない怒りと憎しみから妖たちを虐殺して妖界を荒らし回った。この“怪物”の噂を聞きつけた“英雄”は“怪物”と対峙し、死闘を繰り広げる。その戦いは森を薙ぎ、地を裂くほどであった。

このとき裂かれた大地が現在のホワイトランドだと言われており、物語は裂かれた大地の上で“英雄”が“怪物”を討ち果たして終幕を迎えている。


物語であるが故、当然脚色もあるだろうが、ここに描かれる“英雄”がサンクティタス王国を築いたとも、その末裔が現在の貴族たちであるとも伝えられることから、この伝承は西洋妖界の民たち皆がただの“伝承”ではなく、実際に起こった“歴史”であるように感じているのである。


「悪クナイ。悪クナイ。私ガ何ヲシタ。」

長い髪で顔が隠れた女性がそう呟く足元にはエルフの“残骸”が無数に転がっている。ホワイトランドからこの“怪物”を逃がすまいと奮戦したサンクティタス王国兵たちである。押し留めるだけでいい,という任務を、彼らは忠実に守っていた。無理をせず、十分に距離を取り、ただ時間稼ぎをするに努めていた。だが、“怪物”は彼らの虐殺に成功したのである。

「悪クナイ。悪クナイ。私ガ何ヲシタ。」

白かったであろうローブのような衣服は血に染まって赤黒くなり、上半身部分の背中は破けて大きく背中が露出している。女性の背にはかつて翼があった名残りのようなものが突き出している。

「イックス・・・私ノ理解者ヨ。私ハ再ビ報復スル・・・全テニ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ