第167話:転譲の儀
魔界・奈落
サタンが佇んでいると、ドン,という轟音と共に“不死鳥態”の疾風が何もない空間から現れた。
「ほう・・・。その現れ方を見るのは何時以来か。イックス。」
疾風は空中で翼を生やした人間態に変異する。
「ふん。貴様のその異形を見るのも久しいな、サタン。貴様の国は今も健在か?」
「無論だが?」
「そうか、それは何よりだ。いずれ破壊しに行く楽しみがある。その時は貴様とも一戦交えることになろう。」
「フハハハ、それは我も楽しみだ。我は今ここで闘っても構わんがな。」
「フッ、それは骨だ。今はそれよりもやるべきことがあってな。」
「そうか。では、貴様が我が国を脅かしに来ることを待つとしよう。」
そう言うと、サタンは疾風に背を向けて自国に向かって歩み出した。疾風はその背に向けて言う。
「そうだ、貴様の魔力を宿した女に日本で会ったが、あれはどういうつもりだ?貴様は日本になど興味はなかったと思ったが?」
「フハハ、日本になど興味はない。あの女はある男に付けているのだ。」
「?ほう、仔細は知らんが、何れにしろ世は滅ぶ故、その任もあと僅かで終わるであろうな。」
話し終えると、疾風は火山地帯へ向けて飛び立った。サタンはその後を少しだけ見やり、再び歩み出す。
「終わらぬよ、汝の手では恐らく・・・な。」
妖界・日本・京・護国院、母屋・美鳥の部屋
「“あの事”とは?」
仕切り直してミネルヴァが陰美に問う。陰美は目で和神に訴える。
「・・・俺から話しますよ。一応・・・皆さんにも知っておいてもらった方がいいと思いますし。」
「・・・話すのなら、私から話そう。お前の口からは言いづらい部分もあったろう?」
「そうですけど・・・。」
「盗み聞いてしまった借りだ。気にするな。」
そう言うと、陰美はある“儀式”について語り出す。
「美鳥殿は“破滅の不死鳥”疾風と対峙する作戦の最終手段として、ある儀式の話をしたのです。それは、“転譲の儀”。その内容は非常に単純なもので、不死鳥が自身の持つ不死鳥としての能力の一切を譲渡する,というものです。」
「不死鳥としての能力を一切・・・?」
驚く皆を代表して陽子が訊く。
「そうです。不死性は勿論、不知火・不死鳥化・妖力、天力、霊力、魔力の使用など不死鳥が持つ能力の全てを儀式を共に行った相手に与えるのです。」
「つまり、儀式を一緒にした相手が不死鳥になる?」
「そういうことです。」
「・・・ですが、その儀式をして、美鳥様は・・・?」
ミネルヴァが問う。
「・・・亡くなります。美鳥殿はその存在が不死鳥“そのもの”であるが故、不死鳥の能力を譲渡すれば、自身の存在は消滅すると仰っておりました。」
「・・・・・。」
「そして、あの、和神が話しづらいであろうと申し上げたことが、ここからでして。」
「なんでしょう?」
「ええ・・・皆さん、覚えておいででしょうか?不死鳥は不死鳥以外の存在とは子を成せぬ,という話。」
「!」
「不死鳥の能力の一切を譲渡され、不死鳥そのものになる,ということは、“それ”も引き継ぐことになるのです。ですから・・・。」
「和神は子を成せなくなる・・・。」
言いづらそうにしている陰美に先んじて狗美が言葉にした。
「そう言う事になります・・・。」
「それは・・・和神さんじゃないといけないの?」
陽子が陰美に問う。
「“転譲の儀”は誰とでも行えるものではなく、“受け容れし者”としか出来ないと。美鳥殿がお生まれになった時に潜在意識に刻まれた知識だそうです。」
「そう・・・。」
「アレ、でもさぁ・・・。」
サラが疑問を投げかける。




