第166話:変わらない意思
護国院母屋・美鳥の部屋
「まあ、これはあくまでも最終手段だから。けど、多分8割方“それ”が必要になると思う。そうしないと疾風は止められない。和神くんの人生に関わることだから、無理強いはしないけど・・・。」
美鳥が“その作戦”について真剣な面持ちで和神に訊く。
「・・・そうしないと疾風が止められないなら、俺は別に構いません。仮にここで俺だけ逃げ出しても、結局疾風に世界が破壊されたのでは逃げる意味もありませんし。それに、狗美たちの為にも、世界を守る方法があるなら、その方法を試したいです。」
和神も真剣な表情で答えた。美鳥はほっとした顔になった。
「そう・・・。ふふ、和神くんならそう言ってくれると思ってたよ。ね、陰美ちゃん?」
美鳥は襖の方にそう呼びかける。襖がスー,と開き、陰美が顔を見せる。
「申し訳ありません、盗み聞くつもりはなかったのですが・・・。しかし、今の話・・・和神、本当にいいのか?お前・・・その・・・。」
口籠る陰美に和神は柔和に答える。
「いいんですよ、世界のためですから。俺1人の人生をどうこう言ってる場合じゃないです。」
「・・・。」
陰美の頭には確かに,と肯定する思考が9割を占めていた。だがほんの1割程度、和神という一人間の一生を左右してしまうという憂いがあった。それは恐らく、和神や狗美たちと関わる前の陰美にはなかったであろう感情であった。
「お前がそう言うなら・・・。」
「和神くーん!」
遠くから元気なサラの声が響いてきた。
「じゃあ、頭に入れておいてね、和神くん。」
美鳥はスッと立ち上がり、部屋を出て行く。
「どちらへ?」
「私もお風呂だよ♪」
「美鳥さん、今の話、皆にもお伝えするべきかと。」
「・・・それは、陰美ちゃんと和神くんで判断して?私は和神くんの意思だけ聞ければ良かったから。」
そう言うと美鳥は廊下を歩いて行ってしまった。数十秒後、サラたち一同がやって来た。
「あ、ほんとだ。今、美鳥っちからここにいるって聞いてさ。」
「あぁ、何か用?」
和神がそう訊ねると、サラは狗美の方を見る。狗美は和神の前に正座をし、和神の目を真っ直ぐに見つめて訊ねた。
「正直に答えてくれ、和神。お前は、私と出会ってから今日までずっと色んな妖の事情に巻き込まれて、戦争にも駆り出されてきた。お前はそのことについてどう思っている?」
「どうって・・・?どう・・・。」
「本当はもう嫌じゃないか?本当はもう・・・こんな危険な思いはしたくないんじゃないのか?」
「・・・それはないな。」
「!」
和神の即答に一同驚く。
「初めて狗美と妖界に行った時にも言ったけど、狗美が・・・今は陽子さんたちもだけど、皆さんが危険に晒されるって分かってて放っておく程、俺は堕ちてない。まして俺に何か出来ることがあるのにしないなんて、尚更できない・・・よ?」
言うだけ言って和神は急に少し恥ずかしくなっていた。それもそうだ。狗美だけにならまだしも、陽子やミネルヴァたちもいる前でそんなことを言っているのだから。
「和神くんカッコイ~♪」
サラがくねくねしながら言う。
「ま、とにかく、俺の事は気にしないでいいから。」
「本当だな・・・?私・・・迷惑じゃないんだな?」
「うん、全然。」
狗美の表情は安心したように弛緩した。陽子たちもまた同様の表情を浮かべていたが、陰美だけは、浮かない顔をしていた。それに気付いた陽子が訊ねる。
「陰美?どうしたの?」
その言葉に皆が陰美の方を向く。
「あ、いえ・・・。和神、あの事は・・・。」
「あ・・・はい・・・。」
先程の狗美への受け答えとは対照的に、口籠る和神。
「・・・えっ?和神くんと陰美って・・・えっ!そうなの!?」
「黙りなさい、サラ。」
1人キャッキャするサラをミネルヴァが制した。




