第165話:共に生きるということ
フウの言葉に沈黙が流れる。それを破ったのは、狗美であった。
「いや・・・私は、もっと前から気付いていたんだと思う。不死鳥の存在を知るよりも、精霊であるフウに会うよりも、陽子に出会うよりも前・・・。和神と2人で過ごした1週間があった。あいつの趣味の映画とかテレビとかを観て、漫画や雑誌なんかを読んで過ごす内に、自然と思い至ってた。
『こんな時間がずっと続けばいい。でも和神は人間で、私は妖。同じ時間を過ごせるのはごく僅かだ。』
・・・どこかで気付いていた。気付かないフリをしていただけで。その内に陽子の騒動があって、そのまま今日まで殆どを騒動の中で過ごすことになって、私の不安はどこかに忘れられていた。でも、多分忘れていたわけでもなかったんだと思う。私の中にはいつも“和神を失う”という不安があった・・・。失いたくないから、護ると決めた。・・・嗚呼、そうだ。敵の剣から、弾丸から、術から、技から護っていれば、失わない。そう、思い込むことで・・・納得させていたんだ。少なくとも、今すぐに失うことがないように護ろうと・・・。」
「それは・・・間違ってないよ?」
珍しく、あのサラが優しく狗美の肩に手を添える。狗美の大きな瞳は、既にひどく滲んでいたが、声を震わせることはなかった。恐らく彼女自身自らの瞳がそうなっていることに気付いてはいないのだろう。
「・・・そうだな、間違ってはいなかった。だが、なにも解決もしていなかった。“なにも解決していない”ってことから、目を背けてたんだ。・・・解っていたんだ。一緒にいる時間が長くなるほど別れがつらくなるなんてことは・・・。両親とだって、小さい頃しか一緒にいなかったのに、死に別れたときはあんなにつらかった・・・。解っていたのに・・・今日まで・・・共に過ごして来てしまった・・・。」
「時間で見れば然したる時間ではないだろう・・・まして妖である狗美からすれば尚更な・・・。だが、“情”とは“愛着”とは・・・時間だけが紡ぐものではない・・・。例え1日であろうと、1時間であろうと・・・“深い時間”“深い事象”を共に過ごせば・・・情は芽生え、愛着は湧くのだ・・・。」
フウが自身の経験を回顧しながら述べる。フウなりの、狗美への思いやりであった。
「・・・私はどうすればいいのか分からない。和神と一緒にいたいが、これ以上思い出を作れば、別れがもっとつらく感じる・・・。だからと言って、今すぐに別れて2度と会わないなんて・・・。」
葛藤する狗美に、陽子が言葉を投げかける。
「・・・和神さんは、どう思ってるんだろう。」
「・・・!」
「和神さん、わたしたちの戦いとか事情とかに何度も巻き込まれて・・・でもそれが当然みたいに助けてくれて、協力してくれて・・・。だけど、実際に和神さんは・・・わたしたちに巻き込まれること、どう思ってるんでしょうか・・・。」
皆、自分たちが離れるか離れないかを考えるばかりで、肝心の和神の心を考えていなかった。陽子の問いかけに、陽子以外の全員が何故か落ち込んだ。サラが陽子の隣へ行き、しみじみと言う。
「ようこちゃん、流石だわー。」
「え、何がですか・・・?あれ?みなさん、ごめんなさいっ。なんだか余計なことを言ってしまったようで・・・。」
「いや・・・陽子の言う通りだ。和神に訊いてみよう。」
陽子の疑問を、そのまま和神にぶつけてみる,ということになり、お開きとなった。
一方その頃、母屋1階にある美鳥が借りている部屋にて、和神は美鳥から“ある作戦”を聞かされていた。それは、あまりに衝撃的な作戦であった・・・。
申し訳ありませんが、次回は休載させていただきます。




