第163話:器
「・・・というのが“七災神”それぞれの特徴と封印されている場所ね。」
美鳥が“七災神”についての説明をし終えた。
「いい?“七災神”は何れも強力な存在よ。かつて“七災神”が破壊を始めた時に討伐ではなく封印をしたのは討伐するにはそれぞれに時間がかかり過ぎ、封印する方が効率的だと判断したから。当時は戦力が疎らで統率して動かせる兵も少なかったから下した決断だった。でも、今は違う。世界中に国があり、軍があり、こうして情報共有も容易にできる時代になった。だから、今回は封印ではなく討伐をしてほしい。
先も言った通り“七災神”は強力な存在。でも彼らには不死鳥のような不死性はないし、単純な力量で言えば疾風よりは弱いわ。かと言って、油断すれば大勢が死ぬことになるから、十分な対策と戦力が整ってから討伐にかかるように。間違っても、封印を解きに来た疾風を止めようなんてしないように!彼は私が・・・。」
そこまで言って美鳥は一瞬沈黙した。全員が続きを待っていた。
「・・・私“たち”が倒します・・・!以上!!」
世界各国が動き始めた。護国院も再び疾風が襲来した時に備えて防御を固めに動き出す。ミネルヴァは早速“七災神”対策を練るため貴族院へと戻ろうと動く。そのミネルヴァの腕を掴み、美鳥が止める。
「だーめ、ミーちゃん。あなたが一番ダメージ受けてたでしょーが。」
「いえ、それは“大天使の福音”で完全に・・・。」
「それはあなたの身体の傷と疲労のことでしょ?精神と“器”はくたびれたまんまでしょ!」
「・・・っ!」
核心を突かれ、ミネルヴァはぐうの音も出なかった。
「器・・・?」
和神がぼそっと呟いた言葉をフウは聞き逃さず、疑問に答える。
「器は・・・妖や精霊や魔物・・・人間さえも持っている・・・“力の容量”。これを超える力を持つことは出来ないが、自力で器一杯に力を引き出すことも難しいこと。普通は容量の半分くらいを維持しておく。・・・ミネルヴァが“エンジェルアローサル”を使った時で、7割程度。
・・・でも、それが安心。器一杯に力を使うことは・・・負担にもなるから。器は一杯にするだけ負荷がかかる。時には抑えが利かなくなったり、器が壊れて自我が崩壊したりすることもある・・・あぶない。
でも・・・それを10割に・・・容量一杯にできるのが“アークエンジェルアローサル”。大天使から天力を借りて・・・というより大天使の気紛れで、死ぬよりはマシ・・・というだけの諸刃の剣。」
「危ない力なんですね・・・あれは。」
フウはコクコクと頷く。
「私が護国院のお風呂に癒しの力を巡らせるから、それに浸かって疲れを癒して♪みんなもね!」
「いえ、しかし・・・。」
貴族院に帰ろうとするミネルヴァの腕をグイグイ引っ張って強引に引き留める美鳥。
「そんじゃ、アタシは一旦オリエンスに戻ってサタン様に報告して来んね。」
そう言ってサラが魔界に行こうとするのをミネルヴァの腕を掴んだまま美鳥が呼び止める。
「その必要はないと思うよ、サラちゃん。」
「ほぇ?何で?」
「今、私が話したことはサタンも知ってるから。」
魔界・オリエンス王国城・玉座の間
1人の魔人騎士が報告に入って来る。
「失礼致し・・・む?」
「・・・ご用件を。」
玉座の間には秘書の女性魔人1人しかいなかった。
「サタン様は・・・いつもの,か?」
「ええ。」
「最近、頻度が増していないか?」
「ええ・・・以前はひと月、ふた月に1度でしたが、最近は週に1度に。」
オリエンス王国・国王サタンは外出していた。そして場所はいつも決まっていた。
魔界・大陸の中心部にある大穴・“奈落”
“奈落”と呼ばれる大穴の縁に立ち、見下ろすサタン。
「イックス・・・否、疾風。其が貴様の、“彼の者”への贖罪か。・・・違うな。貴様は未だ、罪を無き物に出来ると思っているのか・・・。」
サタンは回顧し、哀愁の眼差しで“奈落”の深淵を覗いていた。




