第162話:疾風の行き先
妖界・京北部・対破滅の不死鳥作戦本部・指令室(簡易テント)
護国院長・護国院陽明、護国隊長・天ヶ崎、陰陽隊長・難波、癒しの不死鳥・不知火美鳥、そして和神たち(狗美、陽子、陰美、ミネルヴァ、フウ、サラ)が集まっていた。ミネルヴァは通信機を用いて、この場での会話を貴族院の指令室にも伝わるようにしている。
「じゃあ、まずは疾風が飛び去った理由から、ね。」
美鳥が話し始めたが、その口調は和神たちに話しかける時と同様のものであった。それでも、皆が真剣な面持ちで聞き入る。
「疾風はかつて世界を破滅させようとしたのはみんな知ってるよね。でも、そのとき疾風は1人じゃなかったの。」
「仲間がいたと?」
天ヶ崎が問う。
「仲間・・・というよりは利害が一致しただけ,って感じかな。疾風は彼らに破壊し始める場所だけ割り振って効率よく破滅が進むようにしただけで、あとは自由にさせてたから。
それで、疾風と一緒に世界を壊し始めたこの7体の破壊の化身みたいな妖や魔物たちは“七災神”と呼ばれて、封印されるまで破壊と殺戮の限りを尽くしたわ。」
「封印されるまで、ということは・・・今もどこかに?」
陰美の問いに、美鳥は頷いた。
「そう。そしてそれが疾風が飛び去った理由・・・“七災神”の復活。多分だけどまず間違いないと思う。」
「奴は自らの手で世界を破滅させたいのではないのですか・・・?」
天ヶ崎が問う。
「彼はこの世界を破滅させる“行為”が目的じゃないの。だからこの世界が破壊できるなら方法は何でもいいと考えている。
本当なら彼自身の力でも世界の破壊は可能だと思うけど、それにはそれなりの力を溜める必要があって、溜めてる間に邪魔されたりしたら延々と破滅させられない。それに仮に破滅させるのに成功しても、そんな力を使ったらその後がどうしたって無防備になる。そこでもし私が生き残っていたら、流石彼も負けてしまうでしょう。
彼の目的は破滅させた“後の世界”にある。だから破滅させた後の世界で出来る限り力を残して生きている必要があるの。」
そこまで聞いた狗美が思い出したように口を開く。
「そう言えばそんなこと言ってたな。・・・何か誰かの為に破滅させるような・・・。」
「誰かの為に・・・?」
ミネルヴァが詳しく知りたそうであったが、美鳥は話を戻す。
「それは今はしなくていい話。それよりも彼が向かった先、“七災神”が封印されている場所を地図に書くわ。ついでにそこに封印されている“七災神”の情報もね。」
そう言うと美鳥は天ヶ崎に地図を持ってくるよう促した。
「まずはね・・・。」
妖界・大洋(流界で言う太平洋)・海底1万m
真っ暗な深海に横綱の巻かれた大岩が不気味なオーラを放ちながら沈んでいる。その周囲には何の生物も近付こうとしていない。疾風はその大岩の目の前に立っていた。大岩に手をかざす。
“解印の不知火”
ボッ,と白い光が深海の闇を照らしたかと思うと、大岩に亀裂が生じ、砕け散る。すると、海底の岩盤にも亀裂が生じ始めた。
「さあ、海神よ。全てを海洋で飲み込んでしまえ。」
そう言うと、疾風は次の“七災神”のもとへと飛び立った。
妖界・京北部・対破滅の不死鳥対策本部
美鳥が情報を伝える。
「海神。妖界の大地の悉くを海に沈めようとした大妖怪。とにかく陸地に並々ならない憎悪を抱いているみたいだったわ。人型をしているけど今で言うなら50mくらいの体長があったと思う。」
美鳥から発せられる“七災神”の情報は護国院と貴族院から世界中の国々へと伝えられていった。




