第160話:来たる、癒しの不死鳥
“聖剣の不知火”がミネルヴァに振るわれんとした時、ミネルヴァの前方の空間が歪み、進行を妨げた。バチバチ,と白い火花を散らす“聖剣の不知火”だが、やがて限界を超えたように衝撃を伴って弾け消えた。その衝撃で飛ばされたミネルヴァは空中に立つ陽子に抱きかかえられていた。
“【禁忌】空間妖術・歪の盾”
“聖剣の不知火”が弾けた衝撃にも微動だにしていないイックスは陽子に視線を向ける。
「九尾・・・空間をも操れたか。いや、九尾であれば当然と言うべきか。だが何故先の戦闘で使わなかった?」
「禁忌ですから、空間妖術は。例え貴方のような強大な敵であっても易々と使う訳には行きません。」
イックスは驚きと嘲りの混ざったような表情をした。
「禁忌だと?フハハ、妖が、しかも汝の如き強き妖が何に禁じられる?何に縛られているというのだ?」
「縛られているのではありません。世を円滑に平和に動かすための“定め”です。」
「フン、自由は遠く、強者には生きづらい世になったか。」
イックスは興が冷めたように視線を落とす。その視線の先には狗美とフウが再び立ち上がり、臨戦態勢を取っていた。
「フッ・・・汝らと遊んでいれば早く力が戻ってくるだろうと戯れていたが・・・遊びが過ぎたようだ。」
ドン,という轟音が空で響き、上空の雲に大穴が穿たれていた。それは宇宙から大気圏へと突入した“彼女”。
「遅かったな・・・フェン!」
“聖剣の不知火”
“聖剣の不知火”
大気圏より超高速で飛来した“フェン”と呼ばれた彼女は“聖剣の不知火”を振るい、これに対してイックスも“聖剣の不知火”で向かい打った。両者の不知火が接触した瞬間、周囲を凄まじい白い衝撃が襲い、ミネルヴァを抱えた陽子もサラも何十mか吹き飛ばされ、地上にいた狗美とフウも森の中に吹っ飛んでいた。
大気圏からもたらされた一撃だが、イックスは空中に立ったまま受け止め続けていた。
「某の居ない世界は平和だったか?フェン・・・?」
「いいえ・・・世界の脅威は貴方だけではありませんからねぇ、疾風。それからフェンと呼ぶのはやめなさい?美鳥と呼びなさい。」
「貴様が・・・その名を名乗る資格などない・・・!」
バチン,と白い火花を散らしてイックスはフェンを弾き飛ばした。両者は向かい合い、睨み合う。
「・・・フッ、まあいい。」
遠方から陽子が戻って来るのを見据えつつイックスは話す。
「貴様に破滅までの猶予をくれてやろう。」
「逃がすとでも?」
フェンが“聖剣の不知火”を握る手に力を籠める。
「良いのか?某と貴様が全力で打ち合えば、某が手を下すまでもなくこの辺り一帯は破滅する。その末に貴様は敗ける。解っているのだろう?某は既に全快時に近い力を取り戻している。」
「・・・。」
フェンは黙っていた。解っていたのである。こと戦闘において自身がイックスには勝てないことは。それは太古の昔から知っていた。そして先程の宇宙からの一撃を受け止めた時、その力が戻って来たことを悟っていた。
「某はな、貴様には見せてやりたいのだ。破滅するこの世界の有り様をな。それが癒しの不死鳥である貴様への何よりの報復となるだろう?」
見下すようにフェンを見つつ不敵に微笑み、イックスは背から不知火の翼を展開する。
「精々今の世界を心に刻み付けておけ。破滅した世界に打ちひしがれるようにな。」
イックスはひと羽撃きで衝撃波とともに超高速で飛び立った。




